推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 周りに人の気配がなくなると、蓮はキャップとサングラスを外した。
 再びの推しとの対面。
 蓮はとてもラフな格好だった。白地に赤と黒のラインが入った長袖Tシャツに黒のパンツ。足元は黒のスニーカー。
 気取った様子はないのに、そのスタイルからは隠し切れないオーラが漂っていた。
「千紘も来てたんだ」
「うん。成瀬さんにチケットをもらって。あ、元々来るつもりではいたんだけど」
 私は慌てて言葉を紡ぐ。
 すると、蓮がおかしそうに笑った。
「そかそか。あの陽がね。ふーん。千紘、ちょっとチケット見せて」
 私はチケットを差し出した。
 蓮はそれをまじまじと見つめる。
「はは。やっぱり、そうか。陽のやつ」
 何やら納得した様子で、嬉しそうな笑みを浮かべる蓮。
 一体どういうことだろう?
 不思議に思っていると、蓮がチケットを返してくれた。
「それがあれば、ここ通れるから」
 私はポカンと蓮を見た。
 それってどういう意味?
 そんな私の疑問に答えるように、蓮がドアへと手を伸ばした。
 少し重そうなドアの向こうには警備の人が立っていた。
「チケット見せればいいから」
 そう言って、蓮はそのまま中へ入っていく。私も慌てて後に続いた。
 警備の人は特に何も言わず、私たちを通してくれた。
 まさか、こんな場所に案内されるなんて。
「こっち」
 蓮は迷うことなくスタスタと慣れた様子で進んでいく。
 廊下は思った以上に静かで、外のざわめきが嘘のようだった。
 壁には舞台のポスターが何枚も貼られていて、成瀬さんの名前もそこにしっかりと刻まれている。
「蓮、ここって……」
 ようやく声を出すと、蓮は扉の前で立ち止まり振り返った。
「控え室。陽に会うだろ?」
「えっ、でも……迷惑なんじゃ」
「大丈夫、大丈夫。来てるかどうかそわそわする方が、本番に響くから」
 蓮がおかしそうに笑う。
 そういうものなのか。
 知らない世界に触れたような気がして、少しドキドキする。
「陽、入るぞ」
 中から「どうぞ」という声が聞こえた。蓮が扉を開けると、そこには衣装に身を包んだ成瀬さんがいた。
 ライトメイクを施された顔は、いつもより少し鋭く見える。
 そんな成瀬さんの瞳が私の姿を捉えた瞬間、大きく見開かれた。それからすぐに表情がふわりと緩む。
「石川さん……来てくれたんだ」
「はい。チケットいただきましたから。……開演前にお邪魔でしたか?」
「ううん。すごく嬉しい」