推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 二日という時間はあっという間だった。
 楽しみすぎて時間が早く過ぎたという理由もあるが、どんな格好で行くべきか悩みに悩んだせいでもある。
 正直、準備の時間が足りないと思った。
 推し事として自発的に行くなら、ここまで服装で悩まなかったはず。
 だけど今回はいわゆる「ご招待」。成瀬さんの関係者として行くのだから、それなりの格好をしていく必要がある。
 実は、受け取ったチケットが関係者用なのか一般用なのか、私には分からなかった。
 あの時は嬉しさと驚き、そして……葛藤が入り乱れていて、何も考えずにチケットを受け取ってしまったのだ。
 冷静に考えると、これはかなりハードルの高い案件だった。
 成瀬さんに聞けば即解決できただろう。
 けれど、初演目前で忙しいのか、あれ以来顔を合わせることはなかった。
 そんなわけで、結局私は無難なワンピースを選んだ。手持ちの中で一番清楚に見えるものだ。
 選んだのは、光沢のある生地を使った紺地のAライン膝丈ワンピース。首元にはネックレスを添え、薄手の白いロングコートを羽織る。
 シンプルながらも清潔感のある装いが出来上がった。
 鏡に映る自分の姿を確認しながら、私は大きく頷いた。
 これなら、成瀬さんのお知り合いに挨拶することになっても大丈夫だろう。
 私は意気揚々と家を出発した。最寄り駅から電車を乗り継ぎ、劇場へ向かう。
 ロビーに足を踏み入れると、そこは舞台特有の熱気で満ちていた。たくさんの人がソワソワとした様子で開演を待っている。
 ライブとはまた違う雰囲気に、私は少し戸惑った。
 場慣れしていないのが丸わかりの挙動でキョロキョロと辺りを見回していると、後ろからポンと肩を叩かれた。
 驚いて振り返ると、そこにはキャップを目深にかぶり、大きなサングラスをかけた男性がいた。ほとんど顔は隠れているが、見間違えるはずがない。
「れ……」
 私がその人の名を口にするより早く、彼は人差し指を唇の前に立てた。
 私は思わず口を手で押さえる。
 すると、蓮がクスッと笑い、ついて来いと手招きをした。
 私は慌てて彼について行った。
 人波を巧みに避けながら、蓮はどんどん歩いていく。そして、劇場の裏手に回ったところで足を止めた。
 そこは「関係者以外立入禁止」と書かれた札が下がったドアの前だった。