推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 会計を済ませて外へ出ると、少し風が出てきていた。もう春だというのに、まだ夜風は冷たく、思わず首をすくめる。
 成瀬さんも同じように首をすくめて、私の隣に並んだ。
 二人並んで歩き出す。すると、成瀬さんがおもむろに聞いてきた。
「そういえばさ、石川さんってどうして蓮のことが好きなの?」
「え?」
 思いもよらない質問に、思わず足を止めた。
 成瀬さんも私に合わせて足を止め、顔を覗き込むように首を傾げる。
 あまりにも唐突で、私にとっては当たり前すぎる質問に戸惑いを隠せない。
「あの……えっと、いきなりどうしたんですか?」
「いや、なんとなく聞いてみたくなって。ごめん。別に言いたくなかったらいいんだけど」
 成瀬さんはそう言って笑った。その笑みがどこか寂しげに見える。
 私は慌てて取り繕うように言葉を発した。
「いえ! そういうわけじゃないんです。ただ……その……改めてきっかけを聞かれることって、あまりないので驚いただけです」
 私はそこで言葉を切り、少しだけ記憶を遡る。
「……以前にも少し話したことがあったかな? 私は、蓮のあのちょっと暑苦しくて熱血なところに救われたんです」
「救われた?」
「はい。私が初めて影山蓮という存在を知ったのは、蓮がまだ研究生だったころです。私はその頃中学生で……今思えばとても狭い世界で生きていました。部活で選抜メンバーに選ばれたかった私は、懸命に練習に取り組んでいたんです」
「へぇ」
「日々の練習の甲斐あって、ある大会の選抜メンバーに選ばれました」
「それはすごい」
「はい。でも私が選抜入りしたことで、それまで選抜入りしていた先輩がメンバーから外されたんです。私は、先輩の分まで頑張ろうと、それまで以上に部活に励みました」
 一度大きく息を吐く。
「でも、その頃から先輩や部活の仲間とコミュニケーションが上手く取れなくなったんです」
「それって……」
 成瀬さんは私の様子を気にするように、言葉少なに相槌を打つ。
 私は小さく頷いて話を続けた。
「はい。部内で私に対する無視が始まりました。私が練習に懸命になればなるほど、周囲との距離ができていく。今思うと本当にバカらしいです」
 私はそう言って苦笑を浮かべた。
「酷いな。石川さんは頑張っていただけなのに」
「まあ、あの年頃って特にそうだと思うんですけど、悪目立ちする子が疎ましく思えるんでしょうね」
「確かにありがちだけど……」
 成瀬さんが苦々しげに息を吐いた。