推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

「蓮、上手くいくといいですね」
 夜空に輝く月に祈る。
 蓮の選んだ道が良いものになりますように。どうか、推しの笑顔がこれからも見られますように。
 願い終えるのを見計らったかのように、成瀬さんが口を開いた。
「あいつのことが心配?」
 私はその問いに首を振る。
「いいえ。蓮なら大丈夫です。成瀬さんもそう思ってるでしょ」
 成瀬さんは、私の言葉に少し驚いたように目を見張った。そして、すぐにふわりと笑う。その笑顔はどこか嬉しそうだった。
「かなわないな。石川さんには」
 彼はゆっくりと月を見上げる。
 私もつられて夜空を見上げた。
 大きな月が私たちを照らしていた。
 それっきり、私たちは言葉を交わすことなく黙って空を見上げ続けた。

 翌日、事務所から正式に発表があった。
 藤崎樹のグループ脱退および海外でのソロ活動の本格始動。
 そして、Scorpio(スコルピオ)の無期限活動休止。蓮、優磨、涼の三人もそれぞれ個人活動に専念するとのこと。
 どうやら蓮の思いは、この発表を覆すことができなかったようだ。
 だけど、落胆することはない。
 だって、昨日の今日だもの。そう簡単なことではないはずだ。
 私は知っている。
 蓮は決してファンを悲しませたりしない。
 それがアイドル影山蓮なのだ。