推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 じっと見つめられる。その目は何か言いたげで、思わずドキリとする。
 なんだろう?
 私が首を傾げると、成瀬さんは何でもないと言うように、ふわりと笑みを見せた。
 でも、なんだか少し寂しそうに見えるのは私の気のせいだろうか。
 何か声をかけようと口を開きかけた私をかわすように、彼はさらりと話題を変えてしまった。
「あいつ、一体何をやらかす気だろうな」
 成瀬さんの口ぶりからは、蓮を案じていながらも、どこかそれを楽しみにしているような響きがあった。
「話を詰めるって言ってましたけど、誰とですか? 事務所? それとも優磨と涼? まさか、樹ってことは……」
 私の問いに、成瀬さんは肩を竦める。
「さぁ? 誰とだろうな。まぁ、アイドルを続けるために足掻くんだろうけど」
 その言葉は妙に確信めいていた。
 まるで予言のような響き。
 私はそれが現実になればいいと思った。
 大きく伸びをする。夜風が気持ちいい。
 ああ……今日はとんでもない日だった。
 まさか、推しの解散危機に直面し、推し本人に八つ当たりされ、しかもその推しの心の内まで垣間見ることになるとは。
 私は今日、すごい体験をしてしまったのでは?
 深呼吸をする。夜の空気で肺が満たされていく。ゆっくりと息を吐いた。
 なんだか夢を見ていたみたいだ。でも、夢ではない。脇腹に残る鈍痛が現実だと訴えてくる。
 こんな痛みは大したことない。推しが健やかに活動を続けてくれるのなら、些細なことだ。……でも、後で湿布は貼ろう。
 私はそっと脇腹を撫でた。
 優しい成瀬さんは、私の小さな動きを見逃さなかった。心配そうにこちらを覗き込む。
「痛む?」
 私は慌てて首を振る。
「本当に?」
「はい」
 心配させまいと余裕のある笑みをしてみせる。本当に大したことはないのだ。
 しかし、何故だか成瀬さんの眉間には皺が寄る。
 その複雑な表情に戸惑っていると、成瀬さんが神妙な顔で呟くように問いかけてきた。
「……蓮だから?」
「え?」
 そうか。この人は蓮を庇って私が無理をしていると思っているのか。
 私をじっと見つめるその目はどこか切実で、胸が締め付けられる。
「蓮を庇ってるとかじゃないです。ちょっとぶつけただけなので」
「本当に?」
「本当です」
 彼は私をじっと見つめて動かない。私が本当のことを話しているのか見極めようとしているみたい。
 沈黙が重い。
 見つめ合うことに耐えきれず、私は視線を夜空へと向けた。