推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

「いや〜、俺も石川さんみたいに強力なファンが近くにいてくれたら、違ったのかなぁ」
 そう茶化すような口調が、なんだか成瀬さんらしくない気がした。
 気のせいだろうか。なんとなく成瀬さんが何かを隠そうとしているように見えてしまうのは。
 蓮もそんな成瀬さんの不自然さに気がついたようだ。
「陽……お前……まだ」
 蓮の細切れの言葉に、成瀬さんは強張った笑みを見せる。
 それが何を意味するのか。
 私には全く分からなかったが、蓮には分かったようだ。
 今まで私が見たこともないような険しい顔で、蓮は何かを考え始めた。
 一体どうしたのだろう?
 突然黙り込んでしまった蓮と、なぜか気まずそうに苦笑いを浮かべる成瀬さん。
 私はただただ困惑していた。
 どうしたものかと蓮の様子を伺っていると、蓮の表情から険しさが消えた。
 蓮は顔を上げてまっすぐに私を見つめてくる。なんだかとても真剣な雰囲気だ。
 思わず背筋を伸ばして姿勢を正す。
「千紘。やっぱり俺がアイドルを続けるって言ったら、どう思う?」
 私は思わず息を吞んだ。
 まさか、蓮からこんなことを訊かれるなんて想像もしていなかった。でも、私の答えは一つだ。
 迷いなく口を開く。
「そんなの全力で応援するに決まってるじゃん。私は、アイドル影山蓮が好きなんだから」
 はっきりとそう告げると、蓮は間髪入れずに次の質問を繰り出してきた。
「じゃあさ、新しいメンバーで活動するって言ったら?」
 その問いにも、私は揺らぐことなく答えられる。
 だって、答えはずっと前から決まっているのだ。
「それが蓮のやりたいことなら、ファンの私が否定するわけないじゃん」
 私は精一杯の笑顔で答える。
 蓮はそんな私を見て、安心したのか、思いっきりニカリと笑った。その顔は、いつもの強気な影山蓮だ。
「待ってろ。千紘! 陽っ!」
 蓮は高らかにそう宣言すると、グッと力強く拳を握った。
 わけがわからなくて戸惑っている私のことなどお構いなしに、彼は上機嫌に笑う。
 本当に意味が分からない。
 だけど、推しが幸せそうなことだけはよく分かる。
 そんな姿を見ていると自然と顔がほころぶ。私も釣られて笑顔になった。
 ニコニコとしている私たちをよそに、成瀬さんが呆れたように呟く。
「また何か碌でもないこと考えてるだろ、蓮」
 成瀬さんは大きく息を吐いた。
「悪いことは言わない。無茶はするな」
 蓮は首を振る。
 そして、笑みを深めた。
 不敵な笑み。
 彼の力強い声が静かな夜に響く。