推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 ひとしきり笑ったあと、ようやく落ち着いたのか蓮はひとつ息を吐いて、空を見上げた。
 一緒になって笑っていた私も、自然と視線が空に向かう。澄んだ月が煌々と輝いている。
 ちらりと蓮へ視線を戻すと、その横顔から笑顔はもう消えていたけれど、どこか清々しさが感じられる。
 成瀬さんも同じように蓮を見ていた。その表情には、親友が落ち着きを取り戻したことへの安堵が滲んでいた。
 私たちの視線には気が付いていないのか、蓮は夜空に向かってぽつりと呟くように言葉を落とした。
「だけど、どうすっかなぁ……」
 蓮の呟きに私は首を傾げる。
 成瀬さんも不思議そうに問う。
「どうするって、何が?」
「これからだよ。もうビビらないって開き直ったけど、今後どうなっていくべきか。やっぱりそれは考えなきゃいけないと思うんだ」
 蓮は前を向くと決めたようだ。
 私はその選択を尊重したい。それがどんな結果になろうとも。
「蓮はどうなりたいの?」
 私の問いに蓮はしばらくの間考え込んだ。そして、ゆっくりと口を開く。
「……やっぱり今はまだ何もわからない。Scorpio(スコルピオ)じゃなくなった後の自分がわからない」
 彼は真っ直ぐに前を見据えていた。その目には強い意志が宿っているように見える。
「でもそれは、さっきみたいな後ろ向きな意味じゃなくてさ、俺は俺のことを知らなさすぎる。もっとしっかり自分と向き合って、やりたいこと、なりたい自分を探すしかないなぁ」
 蓮は軽く言うけれど、それが案外難しい。
 でも、蓮ならきっと大丈夫。目標を見据え、それに向かってひたむきに努力することを惜しまない人だから。
 蓮の静かな決意に成瀬さんが優しく相槌を打つ。
「いいんじゃない? 俺も色々折り合いつけるのには時間かかったよ」
 成瀬さんはそう言って蓮の肩に手を置いた。
 そして、私へ視線を向ける。
「まぁ、どんなお前になったって、しっかりと見ていてくれる人がいる。それさえわかっていれば、大丈夫だ。良かったな、石川さんがお前のファンで」
 そう言って成瀬さんはニカリと笑った。
 その笑顔が少し苦しそうで、なんだか気にかかった。
 不思議に思って彼を見ていると、視線に気がついたらしい成瀬さんと目が合う。
 彼は一瞬だけ困ったような表情を浮かべたが、すぐにまた笑顔を浮かべて口を開いた。