推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 蓮のあまりの悲嘆ぶりに、成瀬さんもつらそうだった。
 そんなことないよ。
 いつだって蓮は完璧だよ。
 私に夢を見せてくれる素敵なアイドルだよ。
 そう伝えたかった。
 でも、その言葉はぐっと飲み込んだ。
 蓮はそんな上っ面な言葉はきっと望んでいない。
 アイドルという立場に真剣に向き合っている彼のストイックさを、ファンである私が否定するわけにはいかない。
 もどかしい気持ちを抱えたまま、私はただ黙って蓮の話に耳を傾ける。
「プロ失格のままグループ解散なんて、不甲斐なさすぎる。これまで応援してくれたファンに申し訳ない」
 蓮が低い声でそう呟いた。
 そして、ゆっくりと私の方へ視線を向けた。
「ごめんな」
 悲しげな瞳で蓮が私を見つめる。
 普段の強気な彼からは想像できないような弱々しい姿。
 太陽みたいに明るくて、誰にでも優しくて、常に笑顔でキラキラしている蓮。そんなイメージは見る影もない。
 私は思わず唇を噛む。
 私に何ができる? なんて言えばいい? どうすれば彼に笑顔を取り戻すことができる?
 そんな自問自答を繰り返しながら成瀬さんへ助けを求める。
 彼も悲しげな顔をしていた。それでも、友人を鼓舞するように明るく声をかける。
「なにしおらしい声出してんだよ。気持ち悪いな。おまえらしくもない」
 成瀬さんの言葉に蓮は困ったように笑った。その笑顔はやはりどこかぎこちない。
「俺さ、樹の脱退が決まって、必然的にグループの活動もなくなるって雰囲気になってから、ずっと考えていたんだ。この先どうすべきかって」
 まるで独り言を呟くかのように蓮は言葉を続ける。
「事務所ははっきりとは言わないけど、つまり、俺たちには……俺にはアイドルとしての実力がないってことだろ。そんな俺はこの先どうすればいい? 陽のように俳優一本か? それともバラエティタレントか? どちらも今だってやってるけど、それをメインに今後活動していく自分の姿が正直しっくりこないんだ。別にその仕事が嫌ってわけじゃない。ただ、その場所にいる未来が見えないんだ」
 蓮は拳をベランダの手すりに小さく打ち付けた。拳が微かに震えている。
 推しが内に秘める葛藤を目の当たりにする。
 蓮がアイドルとして実力不足だなんて、私は一度も思ったことがない。
 そんなことを言う奴は、私がぶっ飛ばしてやる。