推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 成瀬さんはいつもの穏やかな声で諭すように語りかける。
 蓮は渋い顔をしていたが、どうやら成瀬さんには弱いらしい。
「乱暴なことをして、悪かった」
 ぼそりと告げられた謝罪の言葉に、私は慌てて首を振る。
 推しに謝られる日が来るなんて、思いもしなかった。
 緊張の糸がふっと弛み、思わず涙ぐみそうになる。
 そんな私の様子を見て、成瀬さんは優しく笑った。そして、蓮に向かって何やら目配せをする。
 蓮はそれに一瞬顔を顰めたが、小さく溜め息をついてから、言いづらそうに口を開いた。
「……千紘だっけ? さっきのは図星」
 不意に名前を呼ばれて呆然とする私に構わず、蓮はベランダの手摺りにもたれながら、ぽつりぽつりと話を続ける。
「俺が今日酔ってたのは、樹のせい」
 蓮の言葉に、私は息を飲んだ。
 いきなり核心をついてくるとは思わなかった。
 刺すような私の視線を感じてか、蓮の目がチラリとこちらに向けられた。でも、すぐに逸らされてしまう。
 蓮は私を見ないまま、ぼそぼそと話を続けた。
「もういいよな。明日には分かることだし。お前が気を許してるってことは、千紘は信頼できるってことだろ。なぁ、陽?」
 蓮が確認を取るように成瀬さんへ視線を向ける。
 成瀬さんは蓮の言葉にしっかりと頷いた。
「え? 何? どういうこと?」
 私だけ完全に置いてけぼりだった。
 思わず問い返すと、蓮はこちらに視線を向けないまま淡々と告げる。
「樹の脱退は既定路線だった。俺たちの……Scorpio(スコルピオ)の解散は始めから決まってたんだ」
 蓮の言葉に私は言葉を失った。
 解散が始めから決まってた? どういうこと?
「は、始めから? 始めからって、いつから?」
「だから、始めからだって。俺たちがデビューする前から」
 デビュー前? じゃあ、解散を前提にデビューしたっていうの? それを目指してこれまで活動してきたっていうの?
 信じられない思いで蓮を見つめたが、彼は私を見ようとしない。それどころか、苛立たしげに舌打ちをした。
 私は困惑したまま、成瀬さんに助けを求めるように視線を向けた。
 彼は全てを知っているのか、苛立つ蓮に代わりゆっくりと口を開いた。
「誤解しないで。蓮たちは最近までそんなこと知らなかった。あくまで事務所の上の人たちが勝手に決めていたこと。Scorpioのみんなは、スコッコたちと同じように、国民的人気グループになるために、いつだってがんばってた」