推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

「はっ! ファンが何だってんだ。そんなもん買って浮かれやがって。事務所の……あいつらの懐に金が入るだけなのに。あいつらの思うように振り回されているだけだって気づけよ」
 蓮が吐き捨てるように言った言葉に、私はグッと息を呑む。
 ファンを大切にする蓮が、こんな風に言うなんて。
 信じられなかった。一瞬怯みそうになる。
 だけど、私は蓮をキッと睨みつけた。
 怯んでいる場合ではない。今ここで引くわけにはいかない。
「振り回されてなんかない! 私は自分の意思でScorpio(スコルピオ)を、蓮を応援してるの」
 その言葉に蓮の目がさらに鋭くなった。
 アイドルスマイルの下には、こんなにも感情を剥き出しにする蓮がいたのか。
 これが彼の本当の姿なのだろうか。
 蓮は私に向かって大きく舌打ちをする。
「何も知らないくせに」
 蓮の言葉は鋭利なナイフのようだった。
 私の心に傷をつけていく。
 だけど、そのナイフは言葉を発した本人すらも傷つけているようだ。
 蓮は苦しそうに顔を歪める。
「……お前に何が分かるんだよ」
 顔を背ける吐き捨てるように呟かれたその言葉は、私の耳にはっきりと届いた。
 思わず口を開きかけた時、成瀬さんの声がそれを遮る。
「蓮。そこまでだ。石川さんに当たるなよ。彼女は関係ないだろ」
 蓮は成瀬さんの声にハッとすると、すぐに彼へと視線を移した。
 今にも泣き出しそうな、苦しそうな顔で蓮は成瀬さんをジッと見つめている。
 まるで自分を責めているような顔だ。
 一体何が彼をこんな風に苦しめているのだろう。
 蓮は成瀬さんを見つめたまま何か言いたげにしていたが、結局何も言うことなく下を向いてしまった。
 叱られて落ち込んだ子供のように項垂れる蓮の肩を、成瀬さんは宥めるように軽く叩いた。
 それから私を見る。その目はとても優しい。
 推しとやり合った私を心配しているのかもしれない。
 成瀬さんは困ったように眉を下げた。
「蓮が手荒なことして、ごめん。怪我とかしてない?」
 打ちつけた脇腹が少し痛んだが、私は慌てて首を横に振る。
「大丈夫です」
「本当に? もし何か異変を感じたら、すぐに病院に行ってね。病院代はこちらで持つから」
 成瀬さんの言葉に私は小さく「はい」と返事をした。
 今は私の怪我なんてどうだっていい。
 それよりも、もっと大切なことがある。
 私は真っ直ぐに成瀬さんを見つめた。
 知りたいのはScorpioのこと。
 黙ったまま、私はそれを必死に訴える。