推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 そんな蓮に成瀬さんは、諭すように訥々と語りかけた。
「酒だって、タバコだって、そんなことでお前のファンは離れていかない。それくらいで離れていくなら、何をしたって離れていくさ。それを繋ぎ止めるなんてこと、俺たちには無理なんだ。俺たちが出来ることは、真摯にファンと向き合い続けることだけだろ」
 成瀬さんの言葉に、蓮はふっと笑った。
 その大きな体を屈めるようにしてベランダの柵へもたれる。
「簡単に言うなよ。俺たちにとってファン離れが何を意味するか、お前だって分かるだろ」
 蓮のその言葉に、成瀬さんは少し困ったように笑った。
「まぁ。それについては俺の方が深刻だよな」
 そう言って、成瀬さんもベランダの柵へもたれかかった。
 二人並んで空を眺めている。
 何を思っているのか。
 暫くの間無言だった。
 二人の邪魔をするのは気が引けたが、私にはどうしても聞きたいことがあった。
 私は恐る恐る口を開く。
「あ、あの。そもそもなんだけど、蓮がタバコを吸っていたのは、酔っているからってことなんだよね? つまり、酔うほどお酒を飲んだの?」
 蓮はチラリと私に視線を寄越すだけで、何も答えない。
 代わりに成瀬さんが小さく肩を竦めてみせた。
 その反応が、私の疑問を肯定している。
 私は次の疑問を彼らにぶつけた。
「どうして?」
 私の短い問いに、蓮が鬱陶しそうに反応した。
「……んなこと、別にお前に関係ないだろ。俺だって酒を飲む時くらいある」
 むすりと答えた蓮の言葉には、剥き出しの苛立ちが込められていた。
 私に対して明らかに壁を作っている。
 それはまるで、野良猫のようだ。
 安易に手を出せば、きっと手酷く引っ掻かれる。迂闊に近づけば、牙を剥いて威嚇されるに違いない。
 ……そうだよね。私にとって蓮は身近で特別な存在でも、蓮にとっては、ファンの一人に過ぎない。蓮の態度は至極当然だ。
 けれど、私はその壁を壊そうと試みる。
 だって、気になるの。どうして蓮が、アイドル影山蓮のイメージを崩してまで、酔いに任せているのか。その理由が知りたい。
 私は覚悟を決めて蓮に向き直った。
 真っ直ぐ彼の目を見つめる。
 私の視線を受けた蓮は、とても不愉快そうに顔を歪めた。
 まるで威嚇する猫だ。毛を逆立てている姿がありありと想像できる。
 だがしかし、ここで怯んではならない!
 私には、蓮がこんなにもやさぐれていることに心当たりがあった。