推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 成瀬さんの言葉に、私は首を大きく縦に振った。
 強火影山担の私は、蓮の多くを知っているつもりになっていた。
 だけど……。蓮のことを全て知ってるつもりになっていたけで、私、本当は何も知らないんだ。
 そう悟った瞬間、胸の中にぽっかりと大きな穴が空いた気がした。
 そんな私の気持ちを見透かしたかのように、成瀬さんは苦笑いを浮かべる。
「こいつ、酔うとタバコ吸うんだよ。でも、外では酒もタバコもしない。ファンのイメージを壊さない為に」
 成瀬さんのその言葉に、蓮がふんと鼻を鳴らした。
「お前、余計なこと言い過ぎ」
 蓮はタバコを灰皿に押し付けて火を消した。
 そして、私に向かって少しバツの悪そうな顔を向ける。
「悪いな。イメージ壊しちゃって」
 ……あぁ、その顔も私の知らない顔だ。
 いつも見るのは、自信満々な不敵な笑みか、キラキラのアイドルスマイルか。
 こんな不貞腐れたような蓮の顔、私は知らない。
 これが素の影山蓮なんだ。
 私は蓮の言葉にフルフルと頭を左右に振った。
 せっかく推しが目の前に居るのに、それしか意思表示ができないなんて。私って、本当にポンコツだ。
 何か言わなくちゃ。何か、話題を振らなくちゃ。
 焦りのあまりさらに言葉が出てこない私を見て、蓮は少し寂しそうに笑った。
「やっぱ、イメージ悪いよな。幻滅させてごめんな」
 蓮の言葉に、ようやく私の口から言葉が出た。
「違うの! そうじゃないっ!! 幻滅なんてしてないから」
 思ったよりも大きな声に、蓮も成瀬さんもきょとんとしている。
 私だって、自分でびっくりした。慌てて口を押さえる。
 どうしよう、私……。テンパりすぎだ! 穴があったら入りたい!!
 恥ずかしさで思わず俯く。
 すると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。顔を上げると、成瀬さんが面白そうに笑っている。
「やっと、いつもの石川さんだ」
 成瀬さんのほんわか笑顔につられて、私もへにゃりと顔が緩んでしまう。
 そんな私を見て、成瀬さんがまた笑った。
 そして、蓮の背中をバンッと叩く。
「石川さんは、ヘタレなお前でもきっと幻滅したりしないぞ。お前、自分のファンをもっとちゃんと信じろよ」
 蓮は成瀬さんを無言で睨む。その視線は苛立ちを含んでいるようだ。
 蓮の周りだけピンと空気が張り詰めている。今にも成瀬さんに食ってかかりそう。
 だけど、蓮は反発するでもなくただ黙っている。