推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 仕事そっちのけで情報収集をしたのに、得られた情報はたったのそれだけだった。
 とりあえず分かったことは由紀さんにも知らせたけれど、返事はない。
 まぁ、推しの今後が何もわからない状況なのだ。今は気が気じゃないよね。
 私だってScorpio(スコルピオ)のことが心配で、今日は仕事にならなかった。
 残業したところで、きっと仕事は捗らないだろうから、定時でさっさと仕事を切り上げて帰ってきたのだ。
 明日、何が発表されるのか。
 帰宅して気分転換にシャワーを浴びても、モヤモヤは晴れない。
 私は蓮のSNSを何度も見返した。
 しかし、新しい情報は流れてこない。
 ……明日になれば、全てわかる。……早く安心したいよ。
 少しでも蓮との繋がりを感じたくて、お揃いのネックレスを付けてみる。
 推しとの繋がりを謳ったこのネックレスが、本当に蓮と私を繋げてくれればいいのに。
 そんな妄想をしながら、私はネックレスを握り締めて強く願う。
 明日、最悪の知らせだけはきませんように。この想いが蓮に届きますように。
 こんなことをしたところでどうにもならないことは分かっている。
 それでも、私には縋るものがこれしかない。
 不安な気持ちを拭い去りたくて強く強く念じていると、ふいに隣の部屋の窓が開けられる音が耳に届いた。
 続いて、成瀬さんの声が小さく響く。
「あ、こら。勝手に出るなって」
 ……あぁ、成瀬さん。今日は居るんだ。
 ガチガチに強張っていた気持ちが、成瀬さんの声を耳にした途端、ゆるりと解れた。
 私は成瀬さんの声を辿ってベランダに出た。
「成瀬さ〜ん。聞いてくださいよ〜」
 私は弱った声を出しつつ、しきり壁の向こう側へ救いを求めた。彼のトレードマークのほんわか笑顔がそこにあると信じて。
 しかし、成瀬さんからの返事はない。
 しきり壁からひょいと隣宅を覗いてみる。
 そこに居た人影が、私の影にびくりと肩を振るわせた。振動で手にしたタバコの灰が、ポロリと足元に落ちる。
「もう。ベランダに灰落とすなよ。ほら、灰皿」
 成瀬さんが慌てたようにベランダへ出てきた。
 そして、ベランダで固まっているその人と、しきり壁からひょっこりと顔を覗かせている私を交互に見比べる。
 途端に、成瀬さんは困ったような笑顔を作ってみせた。
「あ〜。……こんばんは。石川さん」
 せっかく成瀬さんが挨拶をしてくれているのに、私は驚いて口をパクパクさせることしかできない。
 なんで?
 なんで、蓮がここにいるの!?