推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 その笑顔にまたドキッと胸が高鳴った。
 慌てて目を逸らして、卵焼きを咀嚼する。優しい味のする卵焼きを綺麗に平らげた頃には、心もお腹もすっかり満たされていた。
 私は満足感に浸りながら、こっそりとお隣さんの様子を盗み見る。
 夜景を見ながら缶ビールを飲み、時折つまみ代わりに自分用の皿の卵焼きを頬張る。
 そんな何気ない仕草さえも様になっている成瀬さんの動きを、つい目で追ってしまう。
 すると、成瀬さんが不意にこちらを向いた。
 視線がバッチリ絡む。慌てて視線を逸らすがもう遅い。
 私の不自然な動きはしっかり見られてしまった。
 成瀬さんが小さく笑う気配がする。
「石川さんも、ビール飲む?」
 そう言って、成瀬さんが自身の缶ビールを持ち上げる。まるでCMのワンシーンのようだ。
 私は慌てて首を横に振る。
「実は私、ビールは苦手で……。チューハイとかなら結構いけるんですけど」
「そっか。じゃあこっちか」
 成瀬さんは当たり前のように缶チューハイを差し出してきた。
 あまりにも自然過ぎて、思わず受け取ってしまう。
 成瀬さんから貰ってばかりだ。
 心の声が聞こえるはずもないのに、成瀬さんは笑いながらヒラヒラと手を振った。
「嫌じゃなかったら飲んでよ。俺、石川さんと楽しく飲みたいからさ」
 その笑顔は、まるでアイドルのよう。
 あなたの笑顔だけで、私はもう酔いそうです!
 思わず心の中で叫んでしまった。
 缶チューハイを両手で握りつぶさんばかりに握りしめる。
 ドキドキが止まらない……。心臓が壊れそうだよ。
 そんな私の気持ちなどお構いなしに、成瀬さんは二本目の缶ビールに手を伸ばす。カシュッと小気味よい音がした。
 私も成瀬さんに倣って缶チューハイのプルタブを開ける。プシュッと炭酸が抜ける音がした。
 そのまま口に運ぶと、グレープフルーツの爽やかな味が口いっぱいに広がる。
 ゴクゴクと喉を鳴らして飲めば、あっという間に半分ほどがなくなってしまった。
 缶から口を離し、ふぅと一息つく。
 すると、成瀬さんから小気味良い賛辞が飛んできた。
「いい飲みっぷりじゃん」
 推しの眩しすぎるほどの笑顔に、思わずくらりとしてしまう。
 私は照れ隠しに、残りを一気に飲み干した。
「お、なかなかいけるね。どお? もう一本飲む?」
 空になった缶を私の手から取りながら、成瀬さんが嬉しそうに尋ねてくる。
 推しの笑顔に誘われるように、私はコクリと頷いた。