推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 すると、成瀬さんが手すりから少し身を乗り出して、こちらに皿を差し出してきた。
「トマトのブルスケッタ。飲むなら、まずは何か食べた方がいいと思って」
 私も手すりから少し身を乗り出して、差し出された皿を覗き込む。
 そこには、こんがりと焼かれたバゲットの上にトマトとモッツァレラチーズを乗せて、バジルオイルをかけたものが。
 鮮やかな見た目が食欲をそそる。
 さらに、焼きたてパンの美味しそうな匂いがふわりと漂う。
 再びお腹が空腹を訴えた。
 私は慌ててお腹を押さえたけれど、成瀬さんにはばっちり聞こえてしまったようだ。
 クスクスと笑いを含みながら、成瀬さんがブルスケッタを勧めてくれる。
「よかったらどうぞ。あ、ガーリックバター使ってるけど平気?」
 私は大きく首を縦に振った。
 すぐさま皿の上のひとつを手に取って一口頬張る。
 口いっぱいにトマトの酸味とバジルの香りが広がった。
 とても美味しい。
 ガーリックバターも食欲を掻き立てるいい仕事をしているし、何よりパンの食感が楽しい。
 外側はサクッとしていながら、内側はトマトの水分やオイルで少しふやけてモチッとしているのだ。
 無心でブルスケッタを堪能していると、ふと視線を感じた。
 目が合うと成瀬さんが柔らかな笑みを見せてくれる。
 その笑顔にドキッと胸が高鳴った。
 ヤバッ。食い意地が張っている女だと思われたかも。
 そうは思ったが、美味しいのだから仕方がない。
 私は開き直って、最後の一口を頬張った。美味しさをしっかりと最後まで堪能する。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした。もうひとつ食べる?」
 ニコニコと笑みを浮かべながら勧めてくれる成瀬さん。
 さすがにこれ以上食い意地が張っていると思われたくなくて、私は丁重にお断りする。
「大丈夫です。成瀬さんの分がなくなってしまいますから」
 そう返事をすれば、成瀬さんはまたクスクスと笑う。
「なくなったらまた作ればいいよ。口に合ったのなら食べて」
「え? 作るって……もしかして、これ成瀬さんが作ったんですか? 買ってきたものじゃなくて?」
 驚いて成瀬さんを見れば、彼は何でもないことのように言う。
「こんなの簡単だよ。バゲットにトマトとモッツァレラチーズを乗せただけだし」
 私はブルスケッタが乗った皿をじっと見つめる。
 確かに簡単なのかもしれない。
 それでも、おしゃれなお店で出てきそうな物を、さっと作れるのはやっぱりすごいと思う。
 食材も常備していなければできないことだ。