推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 パタンと、ドアの閉まる音がする。どうやらお隣の成瀬さんが出かけたようだ。
 まだ微睡みの中にいる私は、意識の片隅でそんなことを考える。
 掛け布団を頭まで被ったまま、スマホを布団の中へ引き込む。薄目を開けて時刻を確認すると、午前四時。
 日曜朝の活動時間にしてはちょっと早すぎじゃない?
 確か、昨日も夜遅くに帰ってきたはずなのに。
 やっぱり、成瀬さんの生態は謎すぎる。
 そんなことを思いながら、私は再び夢の世界へと意識を手放した。
 次に目を覚ました時、室内は明るくなっていた。
 スマホを手繰り寄せて時間を確認すると、午前十時。
 大きくあくびをし、ようやく身体を起こす。
 洗面台で鏡に映る自分の寝ぼけ顔に苦笑いしながら、とりあえず歯磨きと洗顔を済ませた。
 キッチンへ行き、遅めの朝食の準備に取り掛かりながら、ふと明け方のことを思い出す。
 確か、成瀬さんは四時に家を出て行ったよね? もしかして、朝のジョギングにでも行ってたのかな。
 自堕落な私とは大違い。
 朝食の準備の手を止め、耳を澄ます。
 しかし、お隣からは生活音らしきものは何も聞こえない。
 やはり早朝から出かけているのだろうか。
 私は再び朝食の準備を進める。
 目玉焼きを作り、レタスをちぎり、トーストを焼く。
 そんな簡易な朝食であっても、自分で用意すると、ちゃんと食事をしているという実感が湧く。
 だから、せめて日曜日の朝くらいは、ゆとりある朝食を心がけている。
 そうは言っても、料理はからっきしなので、用意するのはいつもトーストと目玉焼きなのだが。
 成瀬さんは、あんなに朝早くから活動して、朝食はちゃんと摂ったのかな?
 トーストにかじりつきながら、ふとそんなことを考える。
 お隣さんだと判明してから早三ヶ月。私がここへ引っ越してきてからだと、半年が経つ。
 その間、成瀬さんとマンションで鉢合わせしたことは片手で数えられるほど。
 成瀬さんの生活リズムはいまいちわからない。
 どうやら会社員の私とは違い、不規則な生活を送っているみたい。
 お兄さんのお店だという、あのコーヒーショップで閉店間際に会うことはたまにあるが、いわゆる通勤時間にマンションで顔を合わせることはまずない。
 今日のように朝早くに出かけることもあれば、深夜近くに帰ってくることもある。
 何日も帰ってきていないのではないかと思うほど、お隣からの生活音が聞こえてこないことがほとんど。
 そのせいで、逆に少しの生活音でもすると、つい耳を澄ましてしまう癖がついてしまった。