推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 怒涛のような偶然の連続に、私はまだ夢見心地だった。
 成瀬さんとのおしゃべりは本当に楽しかったな。まさかお隣さんだなんて。これは“嬉しい誤算”ってやつだろうか。
 浮き足立った気持ちのまま部屋に入り、バッグをソファに置いてそっと息をつく。
 蓮のポスターが貼られた壁を見つめた。
 壁の向こうに、成瀬さんがいる。
 ほんの数日前まで顔も名前も知らなかった人。
 再会を願っていた人が、こんなにも近くにいたなんて。
 ……明日も会えるかな。
 そんなことを考えて、慌てて頭を振る。
 いくら隣人でも、毎日会えるとは限らない。私は何を期待してるんだろう。
 妙な気持ちを振り払うように小さく息を吐き、洗面台へ向かう。
 いつもより丁寧に入浴とスキンケアを済ませ、部屋に戻ってソファに腰を下ろす。再び壁を見つめた。
 成瀬さん、もう寝たかな……。
 無意識にそんなことを考えていた時、隣の窓がカラカラと開く音がした。思わず耳を澄ます。
 空気を揺らすような、微かな鼻歌が聞こえてきた。
 ……何の曲だろう?
 はっきりとは聴き取れなかったが、しばらくして窓が閉まる音がした。
 まもなく日付が変わる頃。壁の向こうからは何の音もしなくなった。
 成瀬さんは、もう寝たのかな。私も寝なきゃ。
 電気を消してベッドに潜り込む。
 静寂の中、成瀬さんの鼻歌がふと耳に蘇る。
 やっぱり、耳心地がいい。もっと近くで、あの声を聞いていたい。
 そんなことをぼんやりと思いながら、私は静かに眠りへと落ちていった。