推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

「俺もです。俺も商店街を抜けた先に住んでるんです」
 私はぽかんと口を開けて成瀬さんを見つめた。
 まさか……そんな偶然ある? いや、最寄駅が同じなら不思議じゃないのかも……。
 混乱しながらも、私はようやく口を開く。
「じゃ、じゃあ……とりあえず帰りましょうか」
 マンションまでの道を並んで歩く。
「いや〜、まさかご近所さんだったとは」
「本当に」
 顔を見合わせてクスクスと笑いあっていると、程なくして私のマンションが見えてきた。
 どうしよう……近所っぽいし、今さら住んでいるところを隠すのも変だよね。でも、いくら人畜無害そうでも、やっぱり男の人だし……。
 迷っていると、成瀬さんがマンションの前で足を止めた。
「あの、俺の住んでるマンション、ここなんですけど……石川さんはもう少し先ですか? やっぱり送った方がいいかなって」
 少し緊張した様子の成瀬さんを、私はぽかんと見つめた。
「……何階ですか?」
 不思議そうにしながらも「五階です」と答える成瀬さん。
 その言葉に、私はさらに呆然とする。
「……私も五階です」
「え?」
 成瀬さんが驚いたように私を見る。
「私もここの五階に住んでるんです」
 成瀬さんの目がさらに大きくなり、私とマンションを交互に見比べた。
 私は曖昧に笑うしかない。偶然が重なりすぎて、もう驚く余裕もない。
「俺、五〇二なんだけど」
「……私は、五〇一です」
 まさかの隣同士!?
 とんでもない偶然に、二人で苦笑いをこぼす。
 エントランスを抜け、エレベーターで五階へ。内廊下を歩き、それぞれのドアの前に立つ。
 隣を見ると、成瀬さんも隣のドアの前にいた。本当にお隣さんだった。
 苦笑いを浮かべたまま、成瀬さんが言う。
「ものすごくご近所さんでしたね」
 もう笑うしかない。
「あはは……本当ですね。こんな偶然あるんですね」
 私の言葉に、成瀬さんはもう一度小さく笑い、ポケットから鍵を取り出してドアを開けた。
「それじゃあ、今日は楽しかったです。おやすみなさい」
 ニコリと微笑んで、成瀬さんはドアの中へ。
 私もその背中に慌てて声をかけた。
「お、おやすみなさい」