推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

「あっ! 俺、ここで降ります」
 成瀬さんが慌てて立ち上がる。
「えっ? 私もです」
 その勢いにつられて私も立ち上がり、思わぬ偶然に顔を見合わせた。
 電車はホームに滑り込み、やがて停車する。
 ホームに降り立った私たちは、同時に笑い出した。
「何これ? すごい偶然。こんなことあるんですね」
 私が言うと、成瀬さんも頷く。笑い合いながら改札を抜けた。
 成瀬さんの声をもっと聞いていたい。
 でも、もう夜も遅い。これ以上はダメだと自分に言い聞かせ、名残惜しく足を止める。
 成瀬さんも立ち止まり、振り返った。
「今日はありがとうございました」
 私は頭を下げる。
「推しの話を……蓮の話を飽きずに聞いてもらえて嬉しかったです」
「俺の方こそ、楽しかったですよ」
 成瀬さんは少し照れたように微笑む。
 その表情に、また胸が小さく高鳴った。
 名残惜しい。
 そう思って口を開きかけた時、成瀬さんが腕時計に視線を落とす。
 その仕草がドラマのワンシーンのように様になっていて、思わず見惚れた。
 視線を上げた成瀬さんと目が合う。
「あの……もう遅いですし、家まで送りましょうか?」
「え?」
 思いがけない言葉に、私は固まった。
 ……送る? だいぶ打ち解けたとはいえ、それはさすがに……。
 私の反応に、成瀬さんは慌てて言葉を継ぐ。
「あ、あの。石川さんの家を知りたいとか、そういう意味じゃなくて。やましい気持ちは一切ないです。ただ、こんな時間に女性を一人で帰すのは危ないかなって」
 私は足元を見つめる。
 やましい気持ちがないと言われて、気持ちが萎んだ。そんな自分に心の中で喝を入れる。
 何考えてんの、私。そういう対象として見られてなかったからって、何なの? やましい気持ちがある方が問題でしょ。
 そう言い聞かせる。でも……やっぱり少し凹む。そんな気持ちから目を逸らすように、私は慌てて首を振った。
「だ、大丈夫です。この先の商店街を抜けてすぐなので」
「えっ」
 成瀬さんが驚いたように声を上げた。
 次の瞬間、私の耳に飛び込んできた言葉は、完全に予想の範囲を超えていた。