推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 強い口調に、成瀬さんは驚いたように私の顔を見た。やがて目を優しく細め、ふわりと微笑む。
 その表情に、胸がきゅんと音を立てた。
 ……きゅん?
 思わず胸に手を当てる。
 子犬のようにあどけない笑顔を見つめていると、また胸が鳴った気がした。
 自分の中の不思議な感情に、戸惑う。
 なに、この感じ……。
 混乱する私の耳に、成瀬さんの柔らかな声が届く。
「きっと、高価なプレゼントより、胸を張って応援してくれる方が彼らも嬉しいと思います」
「あっ、はい! これからは、そうします」
 思わず大きな声で返事をしてしまい、慌てて口をつぐむ。
 成瀬さんの言葉は真摯で温かい。
 ああ……話したい。アイドルとそのオタクに理解を示してくれる成瀬さんなら、私の本気の熱量でも引かずに話を聞いてくれる気がする。
 そう思った瞬間、自重というブレーキは見事に壊れた。
 私は語り始めた。
 Scorpio(スコルピオ)を、そして影山蓮をどれほど愛しているか。
 推しを見つけた日のこと、グループとして活動を始めた時の嬉しさ、初めてのライブの興奮。彼らにどれだけ魅了されているか。
 私の愛のすべてを、余すところなく吐き出す。言葉が止まらない。
 推しの話になるといつもこうだ。心にしまっていた想いが、ダムの決壊のようにあふれ出す。いつもなら引かれてしまう私の熱量。
 それを成瀬さんは楽しそうに聞いてくれる。時折うなずき、質問までしてくれる。
 その反応が嬉しくて、楽しい。
 推しについて語れることが、こんなにも幸せだなんて。
 私は完全に舞い上がっていた。駅に着いたことにも気づかず、成瀬さんの声でようやく我に返る。
「石川さんは、どちら方面ですか? 俺は下りに乗るんですが」
 話の腰を折ったことを申し訳なさそうに言う成瀬さんに、私は慌てて答える。
「あ、私も下り方面です。すみません、結局語りまくってしまって」
 成瀬さんは「とんでもない」と首を振り、優しく微笑んだ。その笑顔に、また胸が密かに高鳴る。
 改札を抜け、並んでホームに立つ。
 完全にヲタスイッチが入っていた。夢中で一人語りしてしまったのは、相手を無視しているようで失礼だったかもしれない。
 私は心の中で猛省した。