推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

「お客様、そろそろ閉店のお時間ですが」
 成瀬さんに突然そう告げられ、私は慌ててスマホを見る。時刻はすでに午後十時近く。閉店時間をとっくに過ぎていた。
 いつの間に……と驚きつつ帰り支度を始めると、成瀬さんの笑い声が聞こえた。
「慌てなくても大丈夫です。俺も少しゆっくりしたかったんで、もう少し居させてもらえるように店長に頼んであります」
 そう言ってカップを持ち上げる仕草が、妙に余裕たっぷりで見惚れてしまう。
 待ちわびた相手が目の前にいるのに、私は呆けてばかり。
 そんな私を見て、成瀬さんはまた笑った。その笑顔に視線が釘付けになる。
「一応声はかけたんですよ。でも、随分楽しそうだったので……。 Scorpio(スコルピオ)、好きなんですか?」
 カップをソーサーに戻しながらの一言に、私は一気に赤面した。
「な、なんでそれを?」
 動揺して思わず声が大きくなる。
 成瀬さんはクスクス笑いながら、またカップに口をつけた。
 私は顔を見られたくなくて、慌てて俯く。
 ここは外。自重すべきだった。
 きっと締まりのない顔をしていたに違いない。
 ヲタ活なんて他人に知られたくない。
 特に、こんな爽やかイケメンには絶対に。
 超極秘事項なのに……恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい!
 でも、穴なんてない。私はさらに俯いた。
 そんな私の動揺をよそに、成瀬さんの声は穏やかだった。
「だって、動画見えちゃいましたし。それに、前に会ったときも。取れなかったライブって、Scorpioでしたよね?」
 まるで世間話のような口調に、私は面食らう。
 ……え? あのとき、私、Scorpioって言ったっけ?
 成瀬さんの顔をじっと見ると、彼は穏やかな目で、少し困ったように笑った。
「あれ? 違いました? Scorpioのライブに当たったって騒いでた子の声に反応してたから、てっきり」
 私は思わず目を見開いた。
 ……なんてこと。最初からバレていたようなものじゃないか。
 自分の迂闊さに愕然とする。
 穴があったら入りたいどころか、埋められたいレベルだ。