推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 きちんと洗濯をして、アイロンをかけた水色のハンカチを前に、私は大きくため息をついた。
 あの日、成瀬さんが応急処置をしてくれたおかげで、鞄の中身をぶちまけずに無事帰宅できた。
 いつもなら一ヶ月は引きずるライブチケットの落選も、やけ酒に付き合うと言ってくれた彼のおかげで、胸の中に燻らずに済んだ。
 あれから一週間。
 成瀬さんには会えていない。
 駅でそれとなく待ってみたり、毎日立ち寄ると言っていたカフェを覗いたりもしたけれど、姿は見えなかった。
 連絡先を知らない私は、偶然の再会に賭けるしかない。
 そこまでして会いたい理由?
 ハンカチを返したいから。
 ちゃんとお礼を言いたいから。
 また会おうと約束したから。
 ……なんて、全部建前。
 本音は、もう一度話したい。あの笑顔に癒されたい。ただそれだけ。
 つまり、自己中心的で不純な動機で、私は今日も彼を“待ち伏せ”ている。
「ってか、待ち伏せとかキモっ」
 小さく自嘲し、自分の執着心に呆れる。
 こういうところがダメなんだ。
 良いと思ったら一直線。それ以外は目に入らない。好きなものを自分本位で愛でようとする。まさにヲタク気質。
 私は再びため息をついた。
 ヲタク気質は一般的に敬遠される。だから隠しておかないといけない。
 待ち伏せしていたなんて知られたら、絶対に引かれる。
 そう思うのに、根が生えたように彼を待ち続けてしまう自分に呆れながら、私はコーヒーを一口飲んだ。
 偶然を待つには時間がありすぎる。
 私はイヤホンを装着し、昨日公開されたばかりの Scorpio(スコルピオ)の新曲MVをスマホで再生する。
 星屑が舞う宇宙のような空間。その中心に立つScorpioの四人。
 もう何度見たか分からない。それでも毎回思う。
 ああ、尊い! 蓮、最高。
 立ち姿、歩き方、笑顔、すべてがかっこいい。ダンスもキレキレで、歌も上手い。蓮の歌声は、何度聴いても心を掴まれる。
 彼の歌声に魅了されない人なんて、いるわけがない。