推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 私はむすっとしてしまう。
「どうした?」
 そんな私に、蓮は不思議そうな顔をした。
「だって、ここにあの影山蓮がいるんだよ。もうちょっと、ワーキャーなっても良くない?」
「いや、ならなくていい。プライベートは静かに過ごしたい」
 当人にとってはそうなのかもしれない。
 だけどヲタクとしては、推しが周りから全く見向きもされない状況というのは、なんとも寂しい。
「新生Scorpio(スコルピオ)になったら、そんなこと言ってられなくなるんだから」
 私は当人よりも熱く拳を握る。
「まぁ、そうかもな」
 蓮は意外にも素直に頷いた。それから少し真剣な表情を浮かべる。
「なぁ、千紘。俺のやり方、合ってたのかな?」
「え?」
「Scorpioとして納得いくまで活動したくてオーディションを始めたけど、本当にこれでよかったのか?」
 蓮の迷い。それはきっと、私なんかの言葉では晴れない。
 それでも……。
 私は大きく頷いた。
「いろいろ言われているけど、蓮たちの未来にかける思いは、配信を通してスコッコのみんなにちゃんと届いていると思う。少なくとも私には届いてる」
 蓮がハッとして私を見る。
 私は蓮に向かって笑みを浮かべた。
「グループのことを思って決断したことなら、間違ってなんかないよ。あとは、努力あるのみ」
 蓮の表情がふっと緩んだ。柔らかな笑みだ。
 私はホッとする。
 少しは蓮の不安を拭えたかな?
 ヲタクの私が知る蓮は、いつだって自信満々な顔を崩さない。だけど、本当の蓮はそれだけじゃない。ファンには見せられない顔だってある。
 私は蓮を見つめつつ、今更ながらにそんなことを思った。
 蓮は大きく息を吐くと椅子の背にもたれかかり、私を見てニッと笑った。
「努力って……お前、マジで俺に影響されすぎ」
 その通りだから否定はしないけど……。
 私は抗議の意を込めて蓮を軽く睨む。すると、蓮は可笑しそうに笑った。
「悪い。バカにしてるわけじゃないんだ。ただ、これは難しいのかもなって」
「難しい? 何が?」
 私が問うと、蓮は困ったように笑った。
「いや、こっちの話。ところで、三次選考の投票はしたのか?」
 露骨に逸らされた話が気になるところだが、しつこく聞いても答えてはくれないだろう。
 だから、気づかないフリをする。
「もちろん」
「誰がいいと思った?」
「F。なんか声がよかった。それに、一緒にレッスンしている間、蓮が楽しそうだったから」
 何気なく答えただけなのに、蓮の目が大きく見開かれた。