推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

 成瀬さんの視線がいつもよりも熱い気がして、私はなんだかそわそわしてしまう。
 言葉が出てこない私に代わって、蓮が成瀬さんの肩をポンと叩きながら口を開いた。
「開演前に女口説くとか、余裕だな陽」
 驚いた顔を見せる成瀬さんに、蓮はニヤリと笑う。
 成瀬さんはバツが悪そうに笑い返した。
 自分の心臓が早鐘のように鳴り響いているのがわかる。顔が熱い。頭がくらくらする。
 私の様子など気にも留めず、話を続ける二人を私はただ見つめるしかなかった。
 すると、蓮が思い出したように成瀬さんへ注意をした。
「ってか、お前さ。関係者用を渡したんなら、ちゃんと説明してやれよ。千紘、何にも分かってなかったぞ。ちょうど居合わせたから俺が連れてきてやったけど」
「え?」
 成瀬さんは不思議そうな表情を浮かべる。
 蓮はそれを呆れたように見返した。
「もしかして、お前も分かってなかったのか?」
「招待したい人がいるからって、事務所に石川さんのチケットを用意してもらったけど……」
「あのなぁ〜。千紘が持ってるのは関係者用のチケット。楽屋にだって入れるし、関係者席で観ることになるんだぞ。そういうことは事前に言っておいてやれよ」
 やはり私のチケットは一般用ではなかったらしい。
 成瀬さんが慌てて私に向き直り、少し恥ずかしそうに口を開いた。
「俺、人を招待するの初めてで、チケットの違いとか分かってなかった。ごめん。関係者席だから少し窮屈な思いをさせちゃうかもしれないけど、いいかな?」
 私はその言葉に驚いた。
 初めてなの? 私が?
 しばらく成瀬さんの顔を見つめていた私は、我に返ると慌ててぶんぶんと首を縦に振った。
 大丈夫だと意思を伝えたのに、成瀬さんはしゅんとしてしまう。その不安げな顔が、思わず母性をくすぐった。
 いつもは飄々としているのに、案外心配性なんだね。
 胸の奥がきゅんとする。
 緩みそうな頬を引き締めながら、私は今度は大きく頷いた。
「気にしないでください。私、大人しく観劇しますから」
 すると、蓮がおかしそうに笑い出した。
「大人しく観るってなんだよ、千紘? お前、いつもは騒がしいのか? あぁ、前に会った時も初対面なのに結構ガツンと来たもんな」
 ククッと笑いながら蓮が私を見る。私は思わず言葉に詰まった。
「違……」
 違うと言いたかった。
 だけど、確かにあの時は、なりふり構わず蓮に活を入れていた気もする。