サロンの重厚な扉を蹴破らんばかりに押し開けると、そこには、窓からの柔らかな午後の光を浴びて、優雅に茶を嗜む一人の婦人がいた。
ヴィクトリア・ハリントン。ソフィアの母親であるその女性は、乱入者たちに動揺することもなく、ゆっくりとカップを置いた。
「あら。騒々しいと思えば、ウィンダム侯ではありませんか」
ヴィクトリアは微笑んだ。その表情はあまりにも冷静だった。焦るでもなく怒るでもない。聖母のように微笑むヴィクトリアに、レイモンドは低く問いかける。
「……ソフィアは、どこにいる」
だが、ヴィクトリアは困ったように眉を寄せるだけだった。何ひとつ知らないと言った様子で。
「何のことかしら。あの子なら、貴方の屋敷にいるのではなくて?」
「白々しいことを……! フェリクスがオルディナでソフィアを連れ去るのを、アリスが見ているんだ。その指示を、夫人――あなたがしたということも、既に知っている」
レイモンドが指し示したアリスは、ヴィクトリアと目が合った瞬間、ひっ、と短い悲鳴を上げてイシュの背後に隠れた。ヴィクトリアはその様子を、羽虫でも見るかのように見据え、冷淡な一瞥で切り捨てる。
「見間違いでしょう。フェリクスがそんな野蛮なことをするはずがありませんわ。あの子は今、公務で忙しい身。……それに、たとえわたくしが本当にそのような指示をしていたとして、それの何が問題だとおっしゃるの?」
「……何?」
「あなたたち、離縁するそうね。夫婦仲も上手くいっていなかったのでしょう。それなのに、この状況の何が不満なのかしら?」
「――!」
「ああ、もしかして、ご自分の名誉が落ちることを気にされているの? でしたら心配はいりませんわ。すべての責任はわたくしにある。あの子があなたの元に嫁ぎたいと言いだしたとき、こうなることを予見できなかった、わたくしが悪いのですから。――ウィンダム侯、この件において、あなたの不利になるようなことはございません。そもそも、離縁など珍しくも何ともないのですから」



