ソフィアは、誰にも言えなかった真実を兄に晒した。
「わたしね……『サーラ・レーヴ』っていうブランドを経営しているの。昔、ドレスを破ってしまったあの日……あんなに悲しいことが起きないように、誰でも楽に着られるドレスがあったらいいのにって。それを、イシュに手伝ってもらっているのよ」
かつての傷痕が、今は自分の誇りになっている。ソフィアは涙を拭い、兄を真っ直ぐに見つめた。
「確かに最初は、この家から逃げるための口実だったのかもしれない。でも今は、自分のブランドが、わたしの夢が、本当に大切なの。だから帝国に行こうと思った。イシュと一緒に、もっと沢山の服を作って、沢山の人の手に取ってもらいたいって。……だから――」
フェリクスは呆然としてソフィアを見つめていた。唇がわずかに震える。
「……お前の離縁は、私のせいではないと……そう言うのか?」
「ええ。だから、自分を責めないで、お兄様。……わたし、お兄様を愛しているのよ。本当よ」
その瞬間、フェリクスの顔が子供のようにくしゃくしゃに歪んだ。
母に折檻された時ですら一度も涙を見せなかった兄が、声を押し殺して泣き始めた。
「……ソフィア、すまない……。本当に……すまない。弱い兄で……」
「弱いのは、わたしも一緒よ」
ソフィアはそっと、フェリクスの大きくて逞しい掌を包み込んだ。レイモンドほどではないけれど、大人の男の手だ。
幼い頃、この手に頭を撫でられるのが大好きだった。
「……お兄様、もう一度、わたしの頭を撫でてくださらない? ね?」
「……いい、のか?」
「もちろんよ。わたしも、ずっと望んでいたの。お兄様と、またこうやって笑い合える日を――」
フェリクスの大きな手が、おずおずと、けれど慈しむようにソフィアの髪を撫でた。
その温もりに、ソフィアは心を決める。
この優しい兄のためにも、母と立ち向かわなければならない。もう、逃げているだけの自分は終わりにしなければ――と。



