とある仙女の回顧録

 ああ、なんて不甲斐ない!
 しかも、次の輪廻の扉が開くのは明朝。きっと彼女はそれを見越してそう言ったのでしょう。煮え切らない兄への未練を断ち切るため、迷う時間を残さないように。

 彼女の決意が固かったため、見送りは私が行うことになりました。
 翌朝は、昨日の風がすべての雲を払い、恨めしいほどの晴天です。
 美羽蘭は「旅立ちにはもってこい」だと笑い、庵のほうをちらりと見ます。兄が見送りに、あるいは引き止めに出てこないかと思ったのでしょう。自分で絶対に来ないでくれと言いながら、本当は引き止めてほしい。その心が痛いほど分かります。

「なぜ今なのですか?」

 思わず聞いてしまった私に、彼女は驚いたような顔をした後小さく微笑みました。

「二十一回目の春ですから」

 その答えに一瞬首を傾げ、すぐに得心がいきました。
 彼女がここに来て、兄に恋をしてから二十一年もの月日がたっていたのです。
 天にとっては大した日々ではありません。ですが人の心が強く残る彼女にとっては長い日々。

「この恋に希望がないことは、初めから分かっていたんです。でも私にとっては初めての恋だから、自分の人生と同じ年月だけ頑張ってみよう。初めからそう決めていたんです。それ以上はもう」
    
 嫌われたくないから……と、吐息のような呟き。

「そんなことは!」

 ありえないと言いたかった。
 ですが少し目を閉じた後空を見上げた彼女の目に、もう迷いはありませんでした。馬鹿な兄は稀有な女性に見限られたのです。


「では参りますよ」

 私が右手を空にかざすと、雲の道が現れます。
 美羽蘭は丁寧に礼をすると、振り返ることなく輪廻の輪に戻りました。