グン、と後ろに手を引かれた瞬間に広がった私の大好きな香り。
「っし、」
…あそこから私の所まで追いかけて来たの?
引っ張られた反動で体がバランスを崩して思い切り地面に叩きつけられた。
次の瞬間、ドンッという鈍い音と共に目の前から慎が居なくなった。
「…………」
耳が痛くなる程の静寂の後、ゆっくりと思考が戻ってくる感じがした。
…え、待って。何今の。
「…しん、」
「慎之介!!!!」
珍しく依織の焦った声が聞こえた。
皆の視線を辿ると、そこに倒れているのは愛おしい人。
喧嘩なんて馬鹿だ。
私だって男とそう変わらない、馬鹿で単細胞で脳筋なのかもしれない。
駆け寄った先では頭からじわりじわりと血を流す慎が倒れていた。
「…し、しん。しんのすけ、?」
優しくその頬に触れた。…あぁ、温かい。
「…ふは、泣きそうな顔、」
「慎、喋んないで。今、救急車…」
「雨音、もっと、こっち来て」
途切れ途切れで言われたその言葉通り、私は慎に近付いた。
広げられた腕にぎゅ、と抱き締められる。
その瞬間に涙がぶわっと溢れ出てしまった。
…違う、慎は死なない。死ぬわけがない。
だって私がいるのに。私を残してなんて、
首に回っていた手が私の頬に触れた。
その手はいつものように温かくて優しかった。
そして、ゆっくりと近付いてそっと触れた温もり。
「…あいしてる」
か細くて小さな声。
…何それ。なんで、これが最後みたいな感じで言うの。
「慎之介、もうすぐ…」
くたり、と私の頬に触れていた手が力なく地面に落ちるように離れた。


