君を、ハッピーエンドにしたくない。

 神様はきっと、この世界を「くじ引き」で決めている。

 今日の天気も、隣に座るあいつの笑顔も、そして──どちらが先に止まるかさえも。
 そんな不条理な選択の積み重ねが、僕らの運命という名前の、残酷な喜劇を形作っていく。

 十月の銀杏並木は、死を目前にしたような、病的なまでの黄色に染まっていた。
 舞い落ちる木の葉を見つめながら、僕は思う。

 僕が愛しているのは、君という存在なのか。それとも君の中に残された、僕の愛した「残り火」なのか。

「久しぶり、耕助」

 背後から響いたその声に、僕はまだ知らない。

 目の前の少女が、どんな想いでその名を呼んだのか。
 彼女の中の彼女が沈黙し、彼女自身の心がどれほど激しく脈打っていたのかを。



 ねえ、菜々美。
 君が望んだ通り、僕は君を忘れない。
 思い出になんてさせてやらない。

 ――君を、ハッピーエンドにしたくない。

 最悪な気分で、最高のサヨナラを。

 僕の止まっていた時間が、今、静かに、けれど激しく狂い始める。