上京物語

バタバタと忙しかった受験の日々もようやく落ち着き、私は彼氏のリョウに思い出の展望台──海の見える展望台に呼び出された。

崖下から吹き上げる潮風(しおかぜ)が寒い。

でも、がんばって一緒に勉強して、春から同じ高校に行けると思うと心は温かい。


「ミオ。いままで黙っててごめん! 実はオレ、高校は東京に行く事になったんだ……」

「え……! そんなの初耳なんだけど! 『一緒の高校に行こう』って受験勉強がんばったのに!!」

「オレがシンガーソングライターになりたいの知っているだろ? 東京には刺激もチャンス多いし、『高校卒業したら音楽の専門学校行きたい』って親に話したら『一人暮らしはダメだけれど、東京のばあちゃん家に住まわせて貰って、そこから通うんならいい。ばあちゃんも歳だし、早いほうがいい』って言ってくれて……」

「……決意は固いんだね」

「うん。ごめん……」

「出発はいつ?」

「明日……」

「じゃあ、私たち遠距離恋愛になるってこと?」

「それも……ごめん! 夢に集中したいから、オーディションに受かるまでは会えない」

「受かるのっていつ? 私いつまで待てばいいの!」

「それは……がんばるけれど、いつになるかは約束できない」

「別れるってこと?」

「……」

「そっか……。じゃあここから二人で見る夕陽も最後になるね……」

「……そうだな」

リョウと初デートの時に来て以来、この海辺の展望台からの眺めには様々な思い出がある……。

月の綺麗な夜に呼び出されて告白されたこと。

夕陽で茜色に染まった海を眺めながらバレンタイン・チョコを渡したこと。

真夏のキラキラ輝く海面を眺めながら夢を語り合ったこと。

しばしの沈黙をやぶり、私は意を決して言った。

「気にしないで、私、リョウが誰よりもがんばっていた事知っているし」

「本当か?」

「うん、胸を張っていえるよ!」

「ありがとう」


私は泣き笑いの顔でどん! と胸を張って送り出した。



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【解説】

「どん!」と物理的に彼氏の胸を突っ張り(あの世へ)送り出したようです。

束縛の強い彼氏・彼女……あなたの身近にもいませんか?

難しい事かもしれませんが、好きな人の夢は黙って応援してあげるのも大切かもしれません。