スペックがピアノである私は。
ピアノが弾けて当たり前の人生を送ってきた。
一度聞いた曲は耳コピで弾けたし、
一度譜読みすれば、問題なく弾きこなせた。
でも、前にヒサメ様が言っていたように。
テクニックがあっても、自分らしさが一切ないと言う指摘を幾度も色んな先生に言われてきた。
小学生の頃、ジュニアコンクールで優勝したのに。
スペックがピアノだということが審査員に知れると。
瞬殺で優勝を取り消されたのを思い出した。
あれ以来、コンクールは一度も参加していない。
思い出はいつだって、嫌なことだけを思い出す。
きらきらした思い出は数え切れるほどしかないというのに。
どうして、悲しいことだけを思い出すのだろう…
「おい、ジジイ。大丈夫か」
昼食後。
休憩を取ってから、現れるのはトムじいのはずなんだけど。
玄関から聴こえてくるのは、ハガネの心配するような声だった。
部屋を出ると。
トムじいが、杖をついて入ってきたのでビックリする。
「どうされたんです!?」
「いやあ、お見苦しい姿で申し訳ありません。昨日、転んでしまいまして」
「どうぞ、座ってください」
椅子を用意すると、トムじいがゆっくりと座った。
無理して来なくていいのに、という言葉が喉元まで出かかったけど。
立場的に、トムじいが無理強いして来てくれたのを尊重しようと思った。
私は怒ったりしないのにな。
スペンサー侯爵が厳しいのかな…
「今日はいつもの護衛の方はいらっしゃいのですかな?」
ハガネにびくびくしながら、トムじいが言った。
「あ、はい。お休みです」
「そうですか。そりゃあそうですわな。休みが必要ですわな」
じっとトムじいがこっちを見ているので。
穴があったら入りたいという気持ちになった。
遠まわしに、嫌味を言っているのだ。
貴女の護衛は休まずに働いているんですなあ…という言葉がトムじいの表情から感じ取れた。
トムじいはゴホゴホと咳き込む。
「すいませんが、水を一杯もらえますでしょうか」
ドア付近に立っていたハガネに向かってトムじいが言った。
「今、持ってきてやる!」
ハガネが部屋を出て行く。
「今日はペダルの説明でしたな」
トムじいが工具箱から中身を取り出そうとしたのだが。
「あ」という声と同時に工具箱が落ちて中身が飛び散った。
「申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です。拾います」
と言って、しゃがみ込む。
体調が悪いなら本当に無理して来なくていいのに…
目の前に落ちている、チューニングハンマーと音叉を拾おうとした瞬間だった。
ぐいっと首に何かが巻き付いた。
「うえっ」と口から汚い声が出るくらいの力強さだった。
自分に置かれた状況をすぐには、飲み込めなかったのだ。
ピアノが弾けて当たり前の人生を送ってきた。
一度聞いた曲は耳コピで弾けたし、
一度譜読みすれば、問題なく弾きこなせた。
でも、前にヒサメ様が言っていたように。
テクニックがあっても、自分らしさが一切ないと言う指摘を幾度も色んな先生に言われてきた。
小学生の頃、ジュニアコンクールで優勝したのに。
スペックがピアノだということが審査員に知れると。
瞬殺で優勝を取り消されたのを思い出した。
あれ以来、コンクールは一度も参加していない。
思い出はいつだって、嫌なことだけを思い出す。
きらきらした思い出は数え切れるほどしかないというのに。
どうして、悲しいことだけを思い出すのだろう…
「おい、ジジイ。大丈夫か」
昼食後。
休憩を取ってから、現れるのはトムじいのはずなんだけど。
玄関から聴こえてくるのは、ハガネの心配するような声だった。
部屋を出ると。
トムじいが、杖をついて入ってきたのでビックリする。
「どうされたんです!?」
「いやあ、お見苦しい姿で申し訳ありません。昨日、転んでしまいまして」
「どうぞ、座ってください」
椅子を用意すると、トムじいがゆっくりと座った。
無理して来なくていいのに、という言葉が喉元まで出かかったけど。
立場的に、トムじいが無理強いして来てくれたのを尊重しようと思った。
私は怒ったりしないのにな。
スペンサー侯爵が厳しいのかな…
「今日はいつもの護衛の方はいらっしゃいのですかな?」
ハガネにびくびくしながら、トムじいが言った。
「あ、はい。お休みです」
「そうですか。そりゃあそうですわな。休みが必要ですわな」
じっとトムじいがこっちを見ているので。
穴があったら入りたいという気持ちになった。
遠まわしに、嫌味を言っているのだ。
貴女の護衛は休まずに働いているんですなあ…という言葉がトムじいの表情から感じ取れた。
トムじいはゴホゴホと咳き込む。
「すいませんが、水を一杯もらえますでしょうか」
ドア付近に立っていたハガネに向かってトムじいが言った。
「今、持ってきてやる!」
ハガネが部屋を出て行く。
「今日はペダルの説明でしたな」
トムじいが工具箱から中身を取り出そうとしたのだが。
「あ」という声と同時に工具箱が落ちて中身が飛び散った。
「申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です。拾います」
と言って、しゃがみ込む。
体調が悪いなら本当に無理して来なくていいのに…
目の前に落ちている、チューニングハンマーと音叉を拾おうとした瞬間だった。
ぐいっと首に何かが巻き付いた。
「うえっ」と口から汚い声が出るくらいの力強さだった。
自分に置かれた状況をすぐには、飲み込めなかったのだ。



