色褪せて、着色して。~黒薔薇編~

 スペンサー侯爵の言葉に、また「えっ」と声を漏らす。
 義父とはいえ、会っていないのだろうか。
「いや…急にこんな質問をされても困りますわな」
 いやあ、と言って。スペンサー侯爵は頭をぽりぽりと掻いたけど。
 その表情はどこかさみし気だった。
「侯爵は、蘭殿下にお会いしてないのですか?」
「ええ…。手紙のやりとりや電話はたまにしているのですが。蘭に会ったのは6年前が最後でして」
 ろくねんまえ…

 いくら忙しいとはいえ。血が繋がってはないとはいえ。
 義両親をそんな雑に扱うものなのか。
 蘭殿下の評価は低かったけど。
 更に自分の中での評価がマイナスに差し掛かる。

 スペンサー侯爵は不安そうな表情を見せた。
「あ…あの。蘭殿下には確かにお会いしましたが、お元気そうでしたよ」
 とっさに答えると。
 スペンサー侯爵は即座に嬉しそうな表情を見せた。
「蘭殿下とは挨拶程度の会話でしたが、奥様…カレン様と、とても仲睦ましいご様子でした」
 カレン様が3人目をご懐妊した…というのは言っていいのかわからなかったので。
 そこで口を閉じた。
「そうでしたか…。それは良かった」
 うんうん…と頷いたスペンサー侯爵は「ありがとう」と言って。
 のそりのそりとゆっくり歩いて行く。
 言葉の続きを待っていたが、スペンサー侯爵はそのまま薔薇園を抜けて帰って行った。