色褪せて、着色して。~黒薔薇編~

 気持ちが、沈んだまま。
 時間だけが過ぎて行くような気がする。
 荷物をまとめて。
 馬車に乗って。
 王家の領地から出て・・・

 窓の外を嬉しそうにバニラが眺めている。
 バニラに気づかれないように、そっとため息をついた。
 蘭様の実家・・・
 うまく生活できるだろうか。

「ようこそ、スペンサー家へ」

 冷遇されると覚悟していたのに。
 現れたスペンサー夫妻は、常識のある人達だった。
「素顔を見せられないことをどうかお許しください」
 頭から黒いベールをかぶった私を見ても、夫妻はなんのリアクションもなかった。

 ローズ様からお願いされたのは、スペンサー侯爵家でしばらくの間過ごすことと。
 もう一つ。
 私の顔を隠して過ごしてほしいということだった。

 前王妃に生き写しの上、ローズ様に似ているこの顔は。
 色々と不都合なようで。
 金髪も染めてほしいとまで言われたので。
 ウィッグを被ろうと思ったら。
 バニラが、
「そこは、妖精の力でどうにかします」
 と、言って。
 妖精の力とやらで、一時的に髪の毛を茶色に変えてもらい。
 ついでに、瞳の色も茶色に変えてもらった。

 妖力はどう考えても魔法でしょうと突っ込みたいところだけど。
 黙っておく。
「ベールを見ていると、カレンを思い出しますわね」
 ぼそりと、言ったスペンサー夫人に私は首を傾げた。
「王族は顔を知られると色々と大変ですからな。我々は気にしていませんぞ」
 蘭様の養父母は、典型的な貴族に見えた。
 日焼けした小柄なスペンサー侯爵と。
 縦髪ロールにフリフリドレスを着たスペンサー夫人はにっこりと笑った。

 少なくとも、あの蘭様よりかは話のわかる人達だ。
 こっちの事情をすぐに汲んでくれた。
「姫君の過ごされるところですが、敷地内に来客用の一軒家がありましてなあ」
 スペンサー侯爵の言葉に、思わず身体をびくっと震わせてしまう。
「王族の方が住むには狭いと感じられるかもしれませんが、何しろ話が急でしたからなあ」
「お気遣いありがとうございます」
 養父母とはいえ、あの蘭殿下の親だ。
 かつて命令された、あの廃墟が頭をよぎった。