酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜

 ゴホッ、ゴホッ。

 城の廊下を歩いていると、そこかしこから咳の音が聞こえてくる。

 ここは『氷の城』。
 一年中雪が降り注ぐ極寒の地だ。

「奥様……お早う、ございま……グスッ」

 すれ違ったメイドが、鼻を真っ赤にして頭を下げた。
 彼女が抱えている洗濯カゴの中身は、カチコチに凍りついている。
 タオルが板のようだ。
 このタオルで叩かれたら人は死ぬと思う。

「大変そう。大丈夫?」

「はい……。洗濯物が乾かなくて……それに、みんな風邪気味で……」

 見渡せば、廊下の隅の埃、窓枠の汚れ、そして淀んだ空気。
 寒すぎて掃除も行き届かないし、換気もできないのだろう。

 これは、いけない。

 私のモットーは「酒と肴があれば幸せ」。
 けれど、その酒と肴を用意してくれる環境がボロボロでは、私の晩酌ライフも長くはつづかない。
 美味しいお酒は、清潔な環境と、食料を調達してくれる使用人たちから生まれるのだ。

(やるか。……ちょっと本気出しちゃうか)

 私は袖をまくり上げた。

「ちょっとそのタオル貸して。あと、雑巾も」

「えっ!? め、滅相もございません! 辺境伯夫人にそんなことを!」

「いいからいいから。私、掃除好きなの」

 大嘘である。
 掃除なんて大嫌いだ。
 でも、私にはチート能力がある。

 私は雑巾を手に取ると、汚れた窓枠をサッと拭いた。
 その瞬間、掌から浄化の力を流し込む。

 キラキラキラ〜ン。

 そんな効果音が出そうなほど、一瞬で窓枠が輝きを取り戻した。
 こびりついた汚れも、カビも、ウイルスも聖女パワーで全滅だ。

「えっ……? えええ!?」

 メイドが目を丸くしている間に、私は廊下をスタスタと歩きながら、手当たり次第に壁や床にタッチしていく。

 タッチ、浄化。
 タッチ、浄化。

 はい、綺麗になりましたー。

 澱んでいた空気が澄み渡っていく。

「さて、次は中身のケアね」

 私は呆然とするメイドを置いて、厨房へと向かった。