酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜

 チュン、チュン。

 厨房の小窓から差し込む朝日と、小鳥のさえずり。
 なんて清々しい朝だろう。

 ……目の前で、辺境伯様が固まっていなければ。

「……ありえない」

 厨房の木の椅子に座ったまま、フロスティ様は彼自身の手のひらを呆然と見つめていた。
 その顔色は、昨日までの土気色が嘘のように血色が良く、肌艶もいい。

「朝だ。私が……夜通し、眠っただと……?」

 信じられない、といった様子で彼は呟く。

「おはようございます、辺境伯様。よく眠れましたか?」

 私が鍋を洗いながら声をかけると、彼はバッと顔を上げた。

「君は……昨夜の……」

「アマレッタです。昨夜は私の肩を枕にして、それはもう気持ちよさそうに爆睡されていましたよ」

「……っ!」

 見る見るうちに、彼の耳が赤く染まっていく。

 あら、可愛い。
 氷の城主ともあろうお方が、初心な反応を見せてくれるじゃない。

「すまない。不覚だった。まさか厨房で寝落ちするなど……」

「いいえ、お気になさらず。私のホットワインが美味しかった証拠ですから」

 フロスティ様は立ち上がると、軽く体を動かした。
 関節がポキポキと鳴る。

「身体が軽い。頭痛もない。魔力が満ちている」

 彼は自分の身体をペタペタと触り、不思議そうに首を傾げた。

「昨日の『毒々しい色の液体』に、一体何を入れたんだ?」

「スパイスと、ほんの少しの聖女パワーです。あとは、えっと……愛情?」

「愛だと?」

「冗談です」

 私がウィンクしてみせると、彼は露骨に眉をひそめた。

「……ふん。調子のいい女だ」

 憎まれ口を叩きながらも、その口元は僅かに緩んでいた。

 彼は身だしなみを整えると、厨房の出口へと向かう。
 だが、ドアノブに手をかけたところで、ピタリと足を止めた。

 数秒の沈黙。
 彼は背中を向けたまま、ボソリと言った。

「……今夜も、ここに来てもいいか?」

 まるで、遊びに行きたいけれど素直に言えない子供みたいだ。

「ええ、もちろん。美味しいお酒をご用意してお待ちしております」

 私が答えると、彼は一度だけコクンと頷き、足早に去っていった。

 ふふっ。
 晩酌は、飲み友達がいたほうが楽しいもんね。