帰り道。
人混みを避けるように、私たちは裏路地を歩いていた。
喧噪が遠ざかり、静かな雪道に二人の足音だけが響く。
「……楽しかったですね」
私が言うと、フロスティ様は立ち止まった。
「……ああ。悪くなかった」
彼は私の手を握ったまま、じっと私を見下ろした。
フードの隙間から見える瞳は、いつになく真剣だ。
「アマレッタ」
「はい?」
「……きみは、いつまで『辺境伯様』と呼ぶんだ」
不意打ちだった。
「えっ、だって……領主様ですし」
「今は公務ではない。それに、君は私の妻だ」
彼は握った手に力を込めた。
手袋越しの体温が伝わってくる。
「民の前では仕方ないが……二人の時は、名前で呼んでほしい」
彼は少し視線を逸らし、ボソッと言った。
「……フロスティ、と」
名前呼びの要求。
これは、なかなかにハードルが高い。
普段は「閣下」とか「旦那様」とか、役職で呼んで誤魔化していたからなぁ。
「えっと……じゃあ」
私は深呼吸した。
なんだか、私まで緊張してきた。
「……フロスティ、様?」
恐る恐る呼んでみる。
様付けは抜けなかった。
けれど、それを聞いた瞬間。
彼のアイスブルーの瞳が、ふわりと緩んだ。
雪解けのように。
春の日差しのように。
「……悪くない響きだ」
彼は満足そうに微笑むと、私の手を引き寄せて、その甲に口づけを落とした。
チュッ。
「ひゃっ!?」
「帰ろう、アマレッタ。……城に戻ったら、晩酌の続きだ」
彼は私の反応を楽しむように、いたずらっぽく笑った。
ずるい。
さっきまで屋台でむせていたくせに、急にイケメンムーブを出してくるなんて。
心臓がトクトクと鳴っている。
これはきっと、ホット・エールの酔いが回ったせいだ。
そうに決まっている。
私は赤くなった頬を冷たい風に晒しながら、彼の手を握り返した。
(……ま、名前で呼ぶくらい、サービスしてあげてもいいかな)
冷たい雪道も、繋いだ手だけは熱いくらいだった。
――――――――――――――――――
【★あとがき★】
「面白かった」
「続きが気になる」
「主人公の活躍が読みたい」
と思ったら
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「ひとこそ感想」・「感想」も是非!
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喧噪が遠ざかり、静かな雪道に二人の足音だけが響く。
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「……ああ。悪くなかった」
彼は私の手を握ったまま、じっと私を見下ろした。
フードの隙間から見える瞳は、いつになく真剣だ。
「アマレッタ」
「はい?」
「……きみは、いつまで『辺境伯様』と呼ぶんだ」
不意打ちだった。
「えっ、だって……領主様ですし」
「今は公務ではない。それに、君は私の妻だ」
彼は握った手に力を込めた。
手袋越しの体温が伝わってくる。
「民の前では仕方ないが……二人の時は、名前で呼んでほしい」
彼は少し視線を逸らし、ボソッと言った。
「……フロスティ、と」
名前呼びの要求。
これは、なかなかにハードルが高い。
普段は「閣下」とか「旦那様」とか、役職で呼んで誤魔化していたからなぁ。
「えっと……じゃあ」
私は深呼吸した。
なんだか、私まで緊張してきた。
「……フロスティ、様?」
恐る恐る呼んでみる。
様付けは抜けなかった。
けれど、それを聞いた瞬間。
彼のアイスブルーの瞳が、ふわりと緩んだ。
雪解けのように。
春の日差しのように。
「……悪くない響きだ」
彼は満足そうに微笑むと、私の手を引き寄せて、その甲に口づけを落とした。
チュッ。
「ひゃっ!?」
「帰ろう、アマレッタ。……城に戻ったら、晩酌の続きだ」
彼は私の反応を楽しむように、いたずらっぽく笑った。
ずるい。
さっきまで屋台でむせていたくせに、急にイケメンムーブを出してくるなんて。
心臓がトクトクと鳴っている。
これはきっと、ホット・エールの酔いが回ったせいだ。
そうに決まっている。
私は赤くなった頬を冷たい風に晒しながら、彼の手を握り返した。
(……ま、名前で呼ぶくらい、サービスしてあげてもいいかな)
冷たい雪道も、繋いだ手だけは熱いくらいだった。
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