酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜

 一夜明けて。

 昨夜の猛吹雪が嘘のように、空は突き抜けるような青空だった。
 雪原が日光を反射して、目が痛いくらいに輝いている。

 けれど、領内の被害はゼロではなかった。

「……これは、酷い」

 私が騎士団長のヒャルマールさんと共に訪れたのは、領都から少し離れた丘陵地帯。
 ここは、イースフェルド領ご自慢のリンゴ果樹園だ。

 本来なら、赤く色づいた果実がたわわに実っているはずの時期。
 しかし、目の前に広がっていたのは、無残な光景だった。

 白い雪の上に、無数の赤い斑点が散らばっている。
 昨夜の暴風で叩き落とされたリンゴたちだ。

「ああ……そんな……」
「今年の収入が……」
「おしまいだぁ……」

 農夫たちが雪の上に膝をつき、絶望の声を上げていた。
 無理もない。
 このリンゴは、彼らにとって冬を越すための貴重な現金収入源だ。
 それが収穫直前で、ほとんど地面に落ちてしまったのだから。

 ヒャルマール団長が、沈痛な面持ちで私を見た。

「奥様……お見苦しいところを。しかし、これが辺境の厳しさなのです」

 農夫の一人が落ちたリンゴを拾い上げた。
 雪に埋もれた衝撃で、表面には茶色いあざのような傷がついている。

「傷がついたら、もう市場には卸せねぇ……。味は変わらねぇのに、売り物にならねぇんだ……」

 男の目から涙がこぼれ落ちる。

 私は足元に転がっていたリンゴを一つ拾い上げ、袖でキュッキュと拭いた。

 そして。

 ガブリ。

「お、奥様!?」

 ヒャルマール団長が仰天する。
 私は構わず、シャクシャクと音を立てて咀嚼した。

 うん、美味い!
 蜜がたっぷり入っていて、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。
 雪で冷やされていたおかげで、シャリッとした食感も最高だ。

「もったいないなぁ……。傷がついてるだけで捨てる? 味は一級品なのに? そんなの、酒好きの私が許しません」

「は、はあ……?」

 農夫たちがポカンとして私を見上げる。

 私はニヤリと笑った。

「おじさんたち、涙を拭いて! この落ちたリンゴ、全部拾い集めて!」

「え? で、でも売り物には……」

「売れないなら、加工すればいいじゃない。――最高のお酒にね」