酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜

 寒い夜には、カロリーと熱量が必要だ。
 あれ? カロリーって熱量って意味だっけ……。

 まあいいや。

 上品なスープ? 消化にいいお粥?
 ノンノン。
 弱った体にこそ、ガツンとくる刺激を与えるのだ。

 私は小鍋を火にかけた。

 注ぐのは、たっぷりのオリーブオイル。
 そこに、これでもかという量の刻みニンニクを投入する。

 ジュワワワワッ……。

 油が跳ね、ニンニクの香ばしい匂いが爆発的に広がる。
 これだけで白飯が三杯はいけちゃう。

 具材はシンプルかつ最強の布陣。
 プリプリの海老と、肉厚なマッシュルーム。
 そして味の決め手、鷹の爪を二本。

 種ごと放り込む。

 カプサイシンよ、彼の生存本能を叩き起こせ。

「美味しくなーれ、燃え上がれー」

 仕上げに聖女の魔力を一振り。
 今回は「活性化」に全振りだ。

 グツグツと煮えたぎる油の中で、海老が赤く色づき、マッシュルームがオイルを吸って艶めく。

 完成。
 深夜の禁断メシ、その名も『海老とキノコのアヒージョ』。

 ついでにバゲットを薄切りにして、軽く炙る。
 準備は整った。

「通ります!」

 私は鍋つかみで熱々の鍋を持ち、執務室前の廊下を歩いた。

「奥様! 危険です! 部屋の前は魔力が暴走していて……!」

 近衛騎士たちが止めに入ろうとする。
 が、私の持っている鍋の中身を見た瞬間、彼らの足が止まった。

「なんだこの匂いは……!?」
「ニンニク……? いや、もっと強烈な……脳が痺れるような美味そうな匂いが……」

「責任は私が取ります。というか、あなたたちも心配でしょ?」

「うっ……し、しかし……」

「彼が倒れたら、誰が私たちを守るの? ……開けなさい」

 私の気迫に圧されたのか、騎士たちは顔を見合わせ、そして深く頷いた。

「……ご武運を!」

 合掌された。
 私は戦場に向かう兵士の気分で、凍てついた扉に手をかけた。