酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜

 ゴオオオオオオオオッ!!

 城が物理的に揺れている。
 震度3くらいはあるんじゃないだろうか。

「……うるさいなぁ」

 私は自室のベッドで布団を頭から被った。
 けれど、風の音は容赦なく鼓膜を叩く。

 今日は数年に一度の猛吹雪、『白き咆哮』が到来しているらしい。
 窓の外は真っ白な闇。
 雪が降るというより、空から氷塊が乱れ撃ちされているような状況だ。

(こんな日は、熱燗でもちびちび飲んで寝るに限るのに)

 安眠妨害だ。
 私は布団を跳ね除けた。

 廊下に出ると、そこは阿鼻叫喚の図だった。

「結界班、交代だ! 魔力供給が追いつかん!」
「食料庫の扉が凍りついて開きません!」
「閣下は!? 閣下はどうされた!?」

 騎士や使用人たちが走り回っている。
 そんな中、ヒャルマール団長が立ち尽くしていた。

「団長、どうしたんですか?」

 私が声をかけると、彼は泣きそうな顔で振り返った。

「おお、アマレッタ様……! 実は、閣下が結界の維持に全魔力を注ぎ込んでおられまして……」

 聞けば、この『白き咆哮』から領民を守るため、フロスティ様は不眠不休で結界を張り続けているらしい。
 しかも、食事も摂らず、誰の干渉も拒絶して。

「もう丸一日、何も口にされていないのです。このままではお体が……」

「……はあ?」

 私は眉をひそめた。

 あの不眠症のガリガリ辺境伯が、断食して魔力放出?
 自殺志願者か何か?

(死なれたら困る。絶対に困る)

 彼が倒れたら、結界が消える。
 城が雪に埋もれる。
 私の安眠も、優雅な晩酌ライフも、地下のワインセラーも、全てが終わる。

 ――私の酒を守らねば。

「どいてください。私がちょっと、燃料を注入してきます」

「ね、燃料……? ですが奥様、閣下は誰も寄せ付けようとせず……」

「大丈夫。どんな頑固な扉もこじ開ける、最強の武器を作りますから」

 私は、腕まくりをして厨房へと向かった。