すっかり夜も更けた頃。
騎士たちの宴も終わり、静けさを取り戻した厨房で、私は晩酌の準備をしていた。
鍋の底に残ったポトフと、冷やしておいた白ワイン。
最高の組み合わせだ。
ガチャリ。
扉が開く音がした。
「……騎士たちが世話になったそうだな」
現れたのはフロスティ様だった。
けれど、なんだか機嫌が悪い。
眉間に深いシワを寄せ、腕組みをして立っている。
「こんばんは、辺境伯様。騎士の方々、喜んでいただけたようで何よりです」
「あの大男……ヒャルマールが、君の前で泣いたと聞いた。それに、女神だの救世主だのと……騒がしい」
彼はズカズカと歩み寄ると、私の向かいの席にドカリと座った。
どうやら、虫の居所が悪いらしい。
「残り物ですが、召し上がりますか?」
私は小皿にポトフをよそい、白ワインと共に差し出した。
彼は無言でスプーンを手に取り、ポトフを口に運ぶ。
とろとろの豚肉と、味の染みたカブ。
咀嚼するたびに、彼の険しい表情が和らいでいく。
美味しいものには抗えない。
それが人間の、いや、生き物の性(さが)だ。
「……美味い」
ポツリと、本音が漏れたようだった。
彼は白ワインを一口飲み、ふぅ、と息を吐く。
そして、じろりと私を睨んだ。
その瞳は、昼間のような冷たさではなく、どこか熱っぽい光を宿している。
「だが、気に入らない」
「え? お口に合いませんでした?」
「そうではない。……あまり、他の男に笑顔を見せるな」
彼はスプーンを置くと、テーブル越しに身を乗り出した。
整った顔が近づく。
白ワインの香りがふわりと漂った。
「君の料理で癒やされるのは、私だけでいい。……落ち着かないんだ」
「は、はあ……」
それって、独占欲ってやつですか?
白い結婚とか言っておきながら、随分と言うことが変わってません?
けれど、拗ねた子供のように唇を尖らせる彼を見て、悪い気はしなかった。
むしろ、ちょっと可愛いと思ってしまう私は、既に絆されているのかもしれない。
「善処しますけど……皆さんのことも放っておけません」
「……私の晩酌には必ず付き合え」
彼はそう宣言すると、残りのポトフを平らげた。
そして。
「……美味い。……眠く、なってきた……」
コテン。
本日も安定の即寝である。
私の肩に、ずしりとした重みが乗っかる。
銀色の髪が頬をくすぐった。
「おやすみなさい、嫉妬深い旦那様」
私は彼の寝顔をつつきながら、残りのワインを飲み干した。
外は相変わらずの吹雪。
でも、今夜のポトフは、身も心もとろけさせるほど温かかった。
――――――――――――――――――
【★あとがき★】
「面白かった」
「続きが気になる」
「主人公の活躍が読みたい」
と思ったら
「本棚登録」・「いいね(ハート)」をお願いします!
「ひとこそ感想」・「感想」も是非!
騎士たちの宴も終わり、静けさを取り戻した厨房で、私は晩酌の準備をしていた。
鍋の底に残ったポトフと、冷やしておいた白ワイン。
最高の組み合わせだ。
ガチャリ。
扉が開く音がした。
「……騎士たちが世話になったそうだな」
現れたのはフロスティ様だった。
けれど、なんだか機嫌が悪い。
眉間に深いシワを寄せ、腕組みをして立っている。
「こんばんは、辺境伯様。騎士の方々、喜んでいただけたようで何よりです」
「あの大男……ヒャルマールが、君の前で泣いたと聞いた。それに、女神だの救世主だのと……騒がしい」
彼はズカズカと歩み寄ると、私の向かいの席にドカリと座った。
どうやら、虫の居所が悪いらしい。
「残り物ですが、召し上がりますか?」
私は小皿にポトフをよそい、白ワインと共に差し出した。
彼は無言でスプーンを手に取り、ポトフを口に運ぶ。
とろとろの豚肉と、味の染みたカブ。
咀嚼するたびに、彼の険しい表情が和らいでいく。
美味しいものには抗えない。
それが人間の、いや、生き物の性(さが)だ。
「……美味い」
ポツリと、本音が漏れたようだった。
彼は白ワインを一口飲み、ふぅ、と息を吐く。
そして、じろりと私を睨んだ。
その瞳は、昼間のような冷たさではなく、どこか熱っぽい光を宿している。
「だが、気に入らない」
「え? お口に合いませんでした?」
「そうではない。……あまり、他の男に笑顔を見せるな」
彼はスプーンを置くと、テーブル越しに身を乗り出した。
整った顔が近づく。
白ワインの香りがふわりと漂った。
「君の料理で癒やされるのは、私だけでいい。……落ち着かないんだ」
「は、はあ……」
それって、独占欲ってやつですか?
白い結婚とか言っておきながら、随分と言うことが変わってません?
けれど、拗ねた子供のように唇を尖らせる彼を見て、悪い気はしなかった。
むしろ、ちょっと可愛いと思ってしまう私は、既に絆されているのかもしれない。
「善処しますけど……皆さんのことも放っておけません」
「……私の晩酌には必ず付き合え」
彼はそう宣言すると、残りのポトフを平らげた。
そして。
「……美味い。……眠く、なってきた……」
コテン。
本日も安定の即寝である。
私の肩に、ずしりとした重みが乗っかる。
銀色の髪が頬をくすぐった。
「おやすみなさい、嫉妬深い旦那様」
私は彼の寝顔をつつきながら、残りのワインを飲み干した。
外は相変わらずの吹雪。
でも、今夜のポトフは、身も心もとろけさせるほど温かかった。
――――――――――――――――――
【★あとがき★】
「面白かった」
「続きが気になる」
「主人公の活躍が読みたい」
と思ったら
「本棚登録」・「いいね(ハート)」をお願いします!
「ひとこそ感想」・「感想」も是非!
