酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜

 ガシャーン! ガシャーン!

 城門の方から、金属がぶつかり合うような重い音が響いてきた。
 外は猛吹雪だというのに、何事だろうか。

 私は厨房から顔を出した。

「……酷い」と思わず声が漏れた。

 帰還したのは、この辺境伯領を守る騎士団だった。
 けれど、その姿は「精鋭」と呼ぶにはあまりに痛々しい。

 鎧の隙間には雪が詰まり、髭や髪は凍りついてツララができている。
 何より、彼らの顔色は死人のように青白く、生気が感じられない。
 担架で運ばれている怪我人も多い。

「申し訳ありません、閣下……。魔獣の動きが予想以上に活発でして……」

 先頭に立つ巨漢の騎士が、苦渋の表情で頭を下げていた。
 彼は騎士団長のヒャルマールだ。
 熊のような体躯の持ち主だが、今はその背中が小さく見える。

「皆、よく生きて戻った」フロスティ様が皆に労いの言葉をかける。「まずは食事をして体を温めろ」

 しかし。
 食堂に運ばれてきた食事を見て、騎士たちの表情がさらに曇った。

 皿の上に乗っていたのは、カチコチに凍った黒パンと、板のように硬い干し肉。
 スープはあるけれど、運ばれてくる間に冷めて表面に膜が張っている。

「……これでは、部下の体力も戻らん……」

 ヒャルマール団長が悔しそうに拳を握りしめた。

 この城の食料事情は限界ギリギリなのだ。
 新鮮な食材は届かないし、調理する薪も節約しなければならない。

(……まずい)

 私は柱の陰で危機感を募らせた。

 騎士団が倒れれば、この城の守りが薄くなる。
 城が落ちれば、私の平穏な飲んだくれライフも終わる。
 地下のワインセラーが魔獣に荒らされるなんて、想像したくもない!

(やるしかない。私の「晩酌」を守るために!)

 私はエプロンの紐をキュッと締め直した。