跳べない君と、はねない私

「いやいや、翼。怖いって」

割って入ってくれたのは、昨日も助け船を出してくれた翼くんのご友人だった。

「だって、こいつ、昨日からずっと変」

やめて。
それは、公開処刑すぎる。

眉間にシワを寄せている翼くんに対して、友人は肩を震わせて笑っている。

「ごめん。毒霧みたいで、面白かったから」

友人――いや、もはや命の恩人レベルの男子は、笑いながら翼くんにタオルを押しつけた。

「はい、拭きな」

「……最悪」

翼くんは渋い顔のまま、制服についた水滴を乱暴に拭っている。

「た、タオル……洗って返します!」

「いや、別にいいよー」

「よくないです!」

食い気味に返してしまってから、またやったと思った。

「あー、じゃあお願いしようかな」

場を収めるように、友人がにっと笑う。

「俺、友木一馬(ゆうき かずま)。よろしく。」

「……羽村です」

友木は白い歯を見せて、私に笑顔を向けると

「同級だし、敬語使わなくてよくね?」

絵に描いたような陽キャなセリフを吐いた。

「あ、うん」

私はタオルを友木くんから受け取りながらつられて頷いた。

人間力の差だよな…。

タオルを持ち歩いていざというときに差し出せる人間と、片や他人の制服を汚す人間。

何をどう、育ったらこんなに差ができるのか…。




当たり前だけど、その日のテストはずっと上の空だった。

中学までの復習だから、解けない問題はなかった。
でも、合っているのかも分からないまま、ただ機械みたいに問題を進めた。

私はとことん、人間力がないらしい。

翼くんの制服を汚してしまったことは、何度もフラッシュバックした。

だけど、それ以上に。


━━「体調、治っ……」


あれって、私のこと気にしてくれたんだよね?

迷惑をかけたくせに。

気づけば、翼くんのその言葉ばかり、頭の中で何度も繰り返していた。