疎まれ令嬢の一途な政略婚

「……今週の土曜日、お前に会えないかと(あき)から連絡があった。待ち合わせは○○駅に十一時と伝えておいたから、きちんとした格好をして行って来い」
「はい、分かりました」

 瀬戸口(せとぐち)さんと会う日は思ったよりも早く決まったようで、上機嫌な兄から書斎に呼ばれそう聞かされた。
 ○○駅と言えば、この家の最寄駅からずいぶんと離れている。どうしてそんな場所を待ち合わせにしたのか不思議ではあったが、それを兄に尋ねる事はしなかった。

 部屋を出る前に渡されたのは、私名義の通帳で普段は兄が管理しているもの。
 会社からの給料もここに振り込まれるのだけれど、私は兄から毎月ほんの僅かな額を手渡されるだけ。それ以外がどう使われてるかも全く知らなくて……通帳を開いてみれば数万だけを残して、あとは全部引き出されているようだった。

 ここまで兄が好き勝手出来るのは、彼が古城(ふるしろ)家の跡取りだからという事もあるのだけれど。
 そもそも父は長男である兄にしか興味が無い上に、母は私を生んだ後からずっと入退院を繰り返しているような状態で。兄夫婦やその周りの人たちから、私がどんな扱いを受けてるのかなんて知らないはず。

「このお金で土曜日のための準備しろってことなのね、それでも助かったけれど」

 正直な話、瀬戸口さんの隣を歩くのに恥ずかしくないような服なんて持っていなくて。どうしようかと焦っていたので、有難くはあるのだけれど。
 それでも今まで自分が働いてきた給料のほとんどを、兄が好き勝手に使っていたことが少しだけ悲しかった。