疎まれ令嬢の一途な政略婚

「ねえ、聞いた? あの伊千夜(いちよ)お嬢様がお見合いしたそうよ、相手は中年の成金ですって」
「……まあ、それでも良かった方じゃない? このままじゃ遺産目当てで、年寄りの後妻にされてもおかしくなさそうだったし」

 私が部屋に戻るまでに、そういう陰口を何度も耳にした。やはり兄は私の見合い相手については、周りの誰にも話していないようで。
 何故そんな事をする必要があるのかは分からない。でもいつかは瀬戸口(せとぐち)さんが、私の縁談の相手だとバレると思うのだけど。

 部屋に戻ると鞄の中から、瀬戸口さんに渡された名刺をジッと見つめて。やっぱり素敵なデザインだと思う、個性的だけど繊細で美しい。
 会社を見に来ても構わないと言ってくれた事も嬉しかった、自分の存在を受け入れてもらえた気がして。

 だけど……瀬戸口さんは私に何の利用価値が無い事が分かっても、同じことを言ってくれるでしょうか?

 私は古城(ふるしろ)の家の事情も、会社の経営状況についても何も知らない。雑用のみをさせられ、決して大事なところには触れさせてもらえなかったから。
 瀬戸口さんの所に嫁ぐ場合、私が持って行けるのはこの身一つだけになるはず。その時に彼を酷く落胆させるのではないかと、不安な気持ちもあって。
 これで本当に良いのかと心は迷ったままで、時間だけが過ぎていった。