疎まれ令嬢の一途な政略婚

「ああ、そうだよ! お前もやっと俺たちの役に立ててうれしいだろう、な?」

 私の返事が兄の望む内容だったのだろう。そんな上機嫌な彼を見ながら、自分の心がどんどん冷たくなっていく感じがする。
 どうしてこの家の人達は……私がこんなに疎まれて暮らしてるのに、そんなふうに思っていると考えることが出来るんだろうって。私の人生ならば、自分達のためにどれだけ犠牲にしても何も感じないのだと。
 ……今までこの家の中で、ずっと心を殺して生きてきた。
 だけどあの人は自分を伊千夜(いちよ)という一人の人間として見てくれたから、この胸の中で新しい感情が芽生えたのは間違いなくて。

 だから……この見合いを進めることを望んだのは、本当はこんな人達の為じゃない。私が瀬戸口(せとぐち)さんの役に立てるのならと思ったから、ただそれだけ。
 もしそれが、あの人のただ書類上の妻という立場であっても構わない。

「そうだ! さっそく(あき)から、お前をどこかに誘っていいかと聞かれているんだ。アイツへの返事は俺がしておいてやろう」
「そうなんですね、ありがとうございます」

 まさか瀬戸口さんがそんな事を兄に言うとは思ってなくて驚いたけれど、自分に少しでも興味を持ってもらえたのかと嬉しくもあり。返事については兄に任せて、そのまま書斎を後にした。
 このまま結婚することになった場合、仕事を辞めるべきか聞くのを忘れてしまったが……戻って兄の機嫌を損ねたくないので、それはまた今度にしておくことにした。