◇◇◇ 6 味方と黒幕 ◇◇◇
それから数日後の夕方。自室で男の子と遊んでいる。相手はタイチ君じゃない。
最近、仲良くなった気がしている……同じクラスのジン君だ。
背が高く、サラサラしたやや灰色っぽい髪が印象的なイケメンである。
逆ハーレムに誘おうと考え、家に寄ってもらった。
普段、無口なイメージのある彼は、話してみるとそうでもなく……古くからの友人だったのかなと錯覚するくらい、自然に打ち解けたように思う。
一気に仲良くなっただけでなく、今日は更に深いステージに移行しようとしている。
彼は、イジワルな一面も見せてくれた。
「……出して」
半ば拗ねつつ、不満顔をジン君へ向ける。お願いした。
彼はニヤリと目を細め、ふてぶてしい態度で言う。
「そっちが動いてくれないと、出せない」
要求に怯む。内心では焦っている。目線を下に落として、弱々しく口にする。
「い……嫌だよっ」
「ここ……開いてるよ? わざと?」
指摘されてしまった。口ごもる。ジン君が動いた。私を導く如く、示唆してくる。
「仕向けてんのは、そっちの方じゃん。そんなに出してほしいの?」
彼の指が核心の場所に触れ、息を呑む。
「…………やめいっ!」
唐突に、部屋のドアが開く。兄の声が轟く。
「あ、お兄ちゃん」
「何やっとる、貴様らぁ!」
兄の剣幕に驚く。目を大きくして窺う。何か、怒ってる?
疑問に思い、首を傾げながら答える。
「七並べだけど?」
「聞いてて何か……いや何でもない。とにかく、二人だけで七並べはやめなさい」
怒りが落ち着いたらしい。兄の声の勢いが、普通に戻った。
しかし何で、兄は七並べを止めに来たのだろう。いいところだったのに。
でも確かに。七並べは二人だけでするより、もっと大人数でした方が面白いかも。
「お兄ちゃんが、ごめんね」
ジン君に謝る。静かな眼差しを向けられる。
「噂は、デマだって分かってる」
小さく呟かれた内容を、耳が拾う。
「え?」
見つめ返す。詳しく尋ねたかったのに。
ジン君は「ふふっ」と笑っただけで、教えてくれなかった。
仲良くなれたのはジン君だけではない。別の日に、それぞれ三人のクラスメイトと喋っていた。
ミツヤ君は整った短めの黒髪、茶色い大きな瞳が印象的な、ほんわか優しい雰囲気の子だ。私は、そう思っているのだけど……周囲の友人らからは「腹黒」とか「二面性」などという不本意なあだ名で呼ばれる事もあるそうだ。おばあちゃんの影響で和菓子が好きなのだとか。
キョージ君はヤンキーらしい。本人が言っていた。肩下くらいまである長さの黒髪を後ろで一つに結んでいる。スラッとした体型で背が高い。普段の彼は、めちゃくちゃ明るい……陽気な人だ。
ケンゴ君は栗色の短髪で眼鏡を掛けている。クラスメイトたちや友人らから頭脳派と名高い。クラスでも一位二位を争う程の優等生だ。確か……お父さんがゲーム会社に勤務しているという話を、どこかで聞いた気がする。
四人に逆ハーレムに入ってほしいと頼んだけど、全員に断られた。普通に考えて当然だよね。
だけど。断られる直前に四人とも……タイチ君の方へ視線を向けていたのは、何だったのだろう。
タイチ君は自分の席にいる。頬杖をついて、こちらを見ている。もしかして睨まれている……? 多分、気のせいだよね……?
「普通に友達ならいいよ」
ミツヤ君が返事の補足をくれた。男の子にしては少し高めの声で、ニコッと笑い掛けてくる。ジン君もケンゴ君も、それぞれに頷いている。
「よろしくなっ!」
側にある机に座って片足を組んでいたキョージ君にも、明るく言ってもらえた。ニッと歯を見せてくる様子に安堵する。
逆ハーレムに入ってほしいなどという不可解な要求をして、ドン引きされないか心配していた部分も少なからずあったけど。話を聞いてくれた彼らは変な顔一つせず……むしろ親切だった。
「ねぇ、あれ……」
声が耳に届く。教室内の離れた席に、三人の女子が集まっている。こちらの方を気にしているのか、視線を感じる。彼女たちは何事か、ヒソヒソ話をして笑っている。
恐らく、私の事を笑っているんだろうなと察する。それも仕方のない事。逆ハーレムは、成そうとしている私でさえ許容しがたい刺激物だと思うから。
件の子たちから目を逸らそうとした。その時。
彼女たちの方へ、真っ直ぐに歩いて行く……るりちゃんが見えた。
「ちょっと! どういう意味よ? 今のは?」
ヒソヒソ話をしていた女子たちに咬み付かんばかりの勢いで問い詰めている、るりちゃんに仰天する。普段の彼女からは想像できない剣幕だったので怯む。けれど、このままじゃいけない!
慌てて近付き、るりちゃんの腕を押さえる。
「いいの! るりちゃん、やめて!」
るりちゃんは、私の為に怒ってくれたのだ。
女子らと、るりちゃんが睨み合う。険悪な雰囲気が高まっていた。
パリンッ!
唐突に、何かが割れたような音が聞こえ振り向く。
黒板の近くに置いてあった花瓶が、砕けている。机上に花が散乱し……中に入っていたと思われる水が、床へと滴っていく。
「え……?」
誰かの呟きが響く。
割れた花瓶を見つめる。
教室が少しの間、静寂に包まれる。
花瓶は、教室の端に置いてある机の上で割れていた。さっき私がいた場所の、すぐ側だった。机から落ちた訳でもないのに、何で割れたんだろう。
後の休み時間中、教室の至る所で「花瓶が割れたのは怪奇現象だ」という話題で持ち切りになった。
「かまいたちじゃない?」
るりちゃんといがみ合っていた女子たちでさえ、そんな事を言っている。
私も驚いて、ぼーっとしている。
かまいたちか……。そう言えば。例のゲームに、似た能力を持つキャラクターがいた気がする。えっと……。結構重要なキャラだったような……?
だめだ。どうしても思い出せない。これは…………もう一度、あのゲームをする必要があるよね。
その日は私の家に、ジン君、ミツヤ君、キョージ君、ケンゴ君が遊びに来た。自室に男子ばかり四人も来たのは初めてだった。
遊んでいる最中……ジン君の装着しているヘッドホンから、シャカシャカした音が漏れていた。
涙目になってしまう。
「酷いよ……」
恨み言を口にする。
「やっと広げて、見せてくれたね」
ミツヤ君が舌なめずりをして、私の開いた場所を見ている。
シャカシャカシャカシャカ。
キョージ君が笑う。
「チョロい奴!」
うん。どうせ私は、チョロい奴だよ。
「これじゃ、また私……最後までいけない。今日も、いいように弄ばれちゃう……」
泣き言も言いたくなる。
「あなたが弱いから、そうなるんですよね? それとも、まさか。弱いフリで、逆に煽ってます?」
ケンゴ君に言及される。彼は指で眼鏡を押し上げつつ、冷たい笑みを浮かべている。
シャカシャカシャカシャカ。
「もうダメぇっ! また負けちゃうっ」
私が嘆いた時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「お前らぁっ! いい加減にしろっ! 七並べはダメだって言っただろうがぁ!」
前回同様、兄に怒られた。何故なのか。
「今回は、二人でしていません」
ケンゴ君が反論してくれたので、私も頷いて意見する。
「今日は五人だよ? 前回は『二人だけで七並べはやめなさい』って言われたから、今日は五人でやってる」
兄は何か堪えるように目を伏せた後、バッサリと言い放った。
「とにかく! 七並べ禁止!」
「お兄ちゃんも、やろーよ。七並べ。面白いよ!」
手に持っていた赤いカードを掲げて見せる。兄も取り込もうとした。
兄がジトッとした視線を寄越してくる。
「オレは頗る記憶力が悪い。ゲームと言えど、ボロボロに負けるのは年上のプライドが許せんから遊んでやらん!」
兄の言い分を不満に思う。「えー?」と、口を尖らしつつ考えていた。
もしかして。子供の頃に私と神経衰弱で勝負した事を、まだ気にしているのかな? お兄ちゃん……十連敗してたもんなぁ。
「尻尾巻いて逃げるんだ」
ジン君がボソッと言う。
見ていたミツヤ君が目を輝かせている。ミツヤ君もジン君に続く素振りで、ニコニコしながら「やーい、やーい」と……お兄ちゃんを煽り出す。
キョージ君もフッと笑って、挑発を始める。
「お兄さん……案外、怖がりなんだな」
ケンゴ君は、ほかの皆を諫めそうな雰囲気で……この状況を静観しているようにも見える。だが。
眼鏡の位置を正したのちに、彼も言い及ぶのだった。
「お兄さんは、早く僕たちを帰らせたいのでしょうね。妹さんを独占したいが為の……」
「あー!」
話の途中で、兄が口を挟む。
「クソッ! やってやらあっ! 但し。一回だけだぞ!」
言い切って腰を下ろした兄に目を向ける。少し意外で驚いていた。
兄と遊ぶのは久しぶりだ。楽しくて笑った。
兄の大敗が決定し、お開きになった。
男子四人が帰った後で「例のゲーム」をプレイしようとしていた。「何か、ヒントを思い出すかも?」という期待に、わくわくする。
さっきまでいた四人には、私がタイムリープした件は打ち明けていない。さすがに、信じてもらえないだろうと思って。
納戸を漁って見つけ出した。埃を被っていたので、一旦、本体を拭く。貸してくれた友達が転校してしまったので、未だに返せていない。
……暫くプレイしてみて、思い出した事がある。
かまいたちに似た現象を起こせる、登場人物がいた。風を操る能力者で……私の大好きなキャラである「玻璃ちゃん」の命を狙っている、黒幕的存在が件のキャラクターだった。
えっ? もしかして。クラスメイトの中に、ゲームの黒幕的存在も紛れている? しかも殺人鬼の……!

