ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

 その日は、激しい雨が降っていた。
 私は傘を差しながらも、少し濡れながら母校へ向かった。
 学校の事務室で、夏雄先生に用があることを伝える。
 ほどなくして、先生が職員玄関まで出てきた。

 あの、優しい笑顔を浮かべながら。

「はい、財布」

 先生はあっさりと財布を差し出した。

「ありがとうございます……」

 私はそれを受け取り、小走りで玄関を出た。

 やった。

 やっと——

 これで、会う理由がなくなる。

 ……そう思ったその時。

 背後から、腕を掴まれた。
 振り返ると、そこにいたのは夏雄先生だった。
 その表情は一変していた。

 私は何が起こっているのかもわからないまま、引っ張られるようにして、体育館裏の倉庫に連れていかれた。
 混乱しているうちに、私は世界から遮断された。

 戸惑っていると、肩を掴まれて、先生がキスをしてきた。
 それは甘さとは程遠く、息ができなくなるような、何かを奪い去るような激しさだった。
 私はまともに立っていられず、その場に座り込んでしまった。

 どうして……?

 先生を見ると、全身が雨で濡れていて、
 その表情には、どこか憂いが漂っていた。

「お前はバカだな。昨日あれだけ酷いこと言ったのに、また来て」

 先生はしゃがみ込み、私をじっと見つめた。

「お前が俺を狂わせてるんだよ。自覚ないだろ?」

 ……何言ってるの、この人。
 私は何もしてない。

「先生……私、何か怒らせてしまったんですか……?」

 先生は、しばらく黙っていた。

「いや……お前は悪くない。ただ俺がお前に近づいて、お前は怯えてるのに俺に手を差しのべたり頼ってきたり、またこうしてのこのこ現れて。哀れだと思うよ」

 意味が分からない。

 先生は私をそっと床に倒し、虚ろな目で私の首筋に唇を寄せた。
 その瞬間、頭が痺れるような感覚に襲われる。
 逃げなきゃいけない——そう思ってるのに。
 体がうごかない…。
 どうしてだろう。

 先生の言葉は刺のように痛いのに、触れてくる手は優しい。
 掴まれている手首には力が入っていない。
 きっと、私が本気を出せば振り払える。
 なんで私は逃げないんだろう。
 どうして、先生はこんな中途半端なことをするの?

 気がつけば、服は少しはだけていて、先生の唇が、ろんな場所に触れていた。
 わからない。
 こんな状況で、こんなにも心を弄ばれたはずなのに、どうして私は受け入れてしまってるの?

 先生の心が全然わからない。
 自分の心もよくわからない。

 でも、今わかってしまった。

 こんなことをされても、私は先生に惹かれているのだと。