ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

 実習以来の教室。
 もうここに来る事はないと思っていた。

「今日は教壇に立ってみろ」
「え?」
「せっかくだから」

 言われるまま、私は教壇に立った。
 生徒席を見渡すと、夏雄先生が少し遠くの窓際の席に座っていた。

「私、ちょっと教員らしく見えますか?」

 先生は少し笑んだ。

「まだまだだな」

 厳しいお言葉。
 だってまだ私大学生だし……。

「先生。私一応、三週間教育実習してきたんですけど」
「お前が教壇に立つの、あの時見てない」

 予定が合わなかったのかな。

 先生に見られるのは緊張する。
 その時、先生が席を立ってゆっくりと教壇に近づいてきた。

「先生……?」

 先生の瞳は──またあの、私を追い詰める視線に。

「先生、質問があります」

 悪戯っぽい笑みを浮かべる先生。

「は、はい……なんでしょう?」
「先生って、彼氏いるんですか?」

 ──は?

「そ、それは授業と関係ないです!」

 先生がくすくすと笑う。

「先生、今度二人きりで勉強教えてくれませんか?」

 何の意図があってこんなことを言ってくるんだこの人は。

「先生、揶揄わないでください……」

 でも先生の表情が、だんだん真剣になってきた。

「先生……僕のこと、好きになってくれませんか?」
「えーと……」

 何この状況。
 そして急に黙り込む先生。

「どうしたんですか……?」

 先生はじっと私を見つめる。
 その目には、さっきまでの遊び心はもうなかった。

「……これ、本当にあったらどうする?」
「え?」
「お前、ちゃんと断れるか?毅然とした態度を取れるか?」
「取れます…実習の時は、ちゃんと…言ったような」
「あれじゃダメだ」

 先生が目の前に来た。

「曖昧な態度をすると、余計にややこしくなる。そしたら勘違いして、もっとエスカレートする」

 先生の表情が曇ってくる。

「毎日こんな風に教壇に立って……男子がお前を見るのか」
「先生……?」
「俺と同じ目で見る奴もいるだろう」

 先生の目が、どんどん暗くなっていく。

「触りたいと思う奴も……」

 さすがにそれは考え過ぎなような。

「そこまで思う子はいないんではないでしょうか?」

 先生の眉間に皺が寄る。

「やっぱり受からない方がいい」
「え!?な、何言ってるんですか?!」
「お前には無理だ」

 涙が出そうになった。

「私の何が無理なんですか?」
「……俺が、無理なんだ」

 え?

「つまり……先生の都合ってことですか?」
「……そうだ」
「先生、そんな……私真面目に受かろうとしてるんですけど」
「分かってる。でも本音だ」

 そんな事を言い出す先生を、なんだか可愛いと思ってしまった。

「お前は俺のものだから」
「私はモノじゃないですよ!」

 またこの追い詰めパターンに陥る。