ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

 水島と離れてから、俺の人生は一変した。

 婚約破棄と結婚式のキャンセル。
 志穂さんへの謝罪。
 志穂さんの家族への謝罪、親戚への説明——
 諸々の費用。

 親からはほぼ勘当だった。

 ——全部、覚悟はしていた。

 式場のキャンセル料だけで、数百万円。
 全てを合わせると、俺の年収を超える金額になった。

 けれど志穂さんは、「私が断ったことにする」と言った。
 信じられなかった。

「私にだってプライドがあるんです」

 それを言った時の表情は見るに耐えなかった。
 結局、婚約破棄は”お互いのすれ違い”という体裁で片付いた。

 でも俺は今回の事の全責任を負わないといけない。

 あれから三年——

 費用もすべて払い終わっていた。

 志穂さんは別の誰かと結婚したと聞いた。

 よかった、と思う反面——
 複雑な気持ちもあった。

 だけど、俺は水島に連絡をしなかった。
 いや、できなかった。
 全部が落ち着いてから……と思っていた。

 だけどその”落ち着く”までの間に、自分の中の中途半端さが、
 どれだけ多くの人を巻き込んだのかを思い知らされて、

 ——結局、何もできなかった。

 俺は、贖罪として、このまま教師として生きていくと決めた。
 自分勝手だけど、水島のことも諦める事にした。
 だから水島との関係は、もう終わったんだと、自分に言い聞かせていた。

 ……なのに、実習生として、戻ってきた。

 何となく分かってる。たぶん、まだ俺のことが好きなんだろう。
 三年も放置したのに、あいつは俺の授業を見に来たり、こそこそ動いている。
 バレないつもりらしいが、見ればすぐ分かる。

 授業中、教室の後ろにちらっと見える影。
 廊下の角から覗く視線。
 あいつは、昔から隠すのが下手だった。

 しかも本人は気づいていないが——

 実習生の島田、教員の中山。
 どちらも、あいつを狙ってるのが丸わかりだ。

 島田は水島のいる場所を常に探している。
 中山は、体育教師らしい気さくさで距離を縮めようとしている。

 見ていて、イライラする。

 ……三週間、俺は正気でいられるのか。

 水島が他の男と話している姿を見るたびに、
 三年前の感情が蘇ってくる。

 嫉妬、独占欲、そして——愛情。

 結局、三年経っても変われなかった。
 俺の心には、まだ水島がいる。

 でも、今さら何を言えばいい?
 俺には、水島に何かを言う資格はない。

 ただ、この三週間を乗り切るだけだ。

 水島の実習が終われば、また元の生活に戻る。
 それまでの辛抱だ。

 ——そう思っていたのに。

 職員室で、水島と目が合う瞬間がある。
 廊下で、すれ違う時がある。
 そのたびに、胸が締めつけられる。

 やっぱり、俺は——

 それを言葉にすると、また全てが元通りになってしまう。