ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

 その数日後——

 私は、学校にいた。

 ……先生に会いに来てしまった。

 わかってる。
 どうかしてるって、自分でも思う。
 でも、この衝動を抑えられなかった。

 きちんと先生の口から聞きたい。
 本当のことを、確かめたい。
 そんな気持ちが、私をここまで連れてきた。

 夕方の学校は静かで、部活動の声だけが遠くから聞こえてくる。
 生徒たちの下校時間も過ぎて、先生たちも帰り始める頃。
 私は、職員玄関で先生を待った。

 やがて夏雄先生が来た。
 あの、優しい笑顔で。
 まるで何事もなかったかのように。

 ……なんでそんな、他人みたいな顔をするの?
 私たちの間には、確かに何かがあったはずなのに。

「水島、どうした?」

 その声は、高校時代と何も変わらない。
 生徒に対する、教師としての声。
 私は、必死で感情を抑えながら答えた。

「先生に、話があって来ました」

 先生は少し考えてから、私を教室に連れて行った。
 私と先生が、あの頃一緒に過ごしていた教室──
 今では後輩たちの毎日が詰まっている。

 夕日が、教室の中を橙に染めていた。
 窓から差し込む光が、先生の横顔を照らしている。
 あの頃と、何も変わらない美しさ。

 でも、今の私には、その美しさが残酷に見えた。

「先生……結婚するんですか?」

 核心を突く質問を、私は恐る恐る口にした。

 先生は、適当な椅子に腰掛けた。

「噂が広まるのは、早いね……」

 本当なんだ……。

 教室に、しばらく沈黙が流れた。

「先生……婚約者がいたのに……私に、あんなことしてきたんですか?」

 声が震えた。

「……ごめん」

 ——そんな言葉が、聞きたいわけじゃない。

「先生の、本当の気持ちを教えてください」

 私は、先生を見つめた。
 目を逸らさなかった。

「私は、ただのオモチャだったんですか?」

 先生は、しばらく沈黙したあと——

「……そうだよ」

 そう言った。

 私の心は完全に行き場を失った。